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第2章 180 自分勝手

 その後、城の中は大騒ぎになった。


丸一日行方不明のアルベルトが突如として城に戻って来たのだから無理も無い話だった。

結局アルベルトは私に話した通り、ひとりで領地の視察に行って来たという話で周囲を無理やり納得させたようだった。


中でも宰相が最もアルベルトに憤慨していたそうだが、特に揉め事も無く収まった‥‥…らしい。


この話は翌朝、部屋を訪れたマヌエラによって聞かされたものなので私の耳に直接入ってきたのだった。




そして今――


「いよいよ、今日が自分を聖女と名乗るあの女との勝負の日だな」


朝食の席で向かい側に座るアルベルトが尋ねてきた。


「はい、そうです。それで……昨日何があったのか教えて頂けますよね?」


「ああ、勿論だ。クラウディアには話を聞く権利があるからな」


「ではお願いします」


私の言葉にアルベルトは頷くと、語り始めた。


「お前が黄金の果実を手に入れてから、ずっと俺は警戒していたんだ。この城の大半は宰相側についていると言っていいだろう。何しろ彼は父の代からこの国で宰相を勤めていたわけだし……俺は王にまだなったばかりだからな。挙句に戴冠式すらあげていない」


そしてアルベルトはフッと笑う。


「宰相達はお前の採取してきた果実は本物の黄金の果実だと認めている。だから奪いに来るのではないかと思ったのだ。恐らく‥‥‥あの隠し部屋の存在も知っているはずだ。だから俺はあえて、わざと分かりやすい場所に黄金の果実を隠した」


「わざと……だったのですか?」


「そうだ。あの後、俺は偽の黄金の果実の偽物を信頼できる者に用意させてわざとすり替えておいたんだ。本物は王族だけが知る秘密の地下室に隠してな。翌日には黄金の果実がすり替わっていることにすぐ気付いた。何故なら隠し部屋の細工が開けられた痕跡が残されていたからだ」


 私は黙ってアルベルトの話を聞いている。


「そしてお前から宰相に勝負の日が決まったと聞かされた時に、本物の黄金の果実を取りに行ったんだ」


「それで、誰もアルベルト様の行方を御存知無かったのですね?」


「そういうことだ。だが、俺はどうやら外でも監視の対象だったようだな。黄金の果実を取りに行ったその帰りに……変装していたにも関わらず、野盗のような連中に襲われた。何とか応戦して奴らを振り切って……逃げて来たんだ。お前の元へ」


まさか、そんな恐ろしい出来事があったなんて……


何でもないような口ぶりで私を見つめるアルベルト。けれど、私は彼に言いたいことが山ほどあった。


「アルベルト様、何故いつも誰にも相談せずに勝手に行動されるのですか? せめて……私にだけは相談しようとは思わなかったのですか?」


「クラウディア?」


アルベルトが不思議そうに首を傾げる。


「そんなに私のことが信用出来ませんか? 私たちは……一蓮托生では無かったのですか……?」


気付けば目じりに涙が浮かんでいた。


勝手だ……私は何て自分勝手な人間なのだろう? 

回帰前の記憶があまりにも鮮明に残っているために、私はアルベルトを疑っていたのに。それなのに彼に自分に対する信用を求めるなんて。


私がこんな有様だから、アルベルトは死にそうな大怪我を負ってしまったかもしれないのだ。


「クラウディア……お前、もしかして泣いているのか?」


アルベルトは立ち上がると、私の側にやってきた。


「も、申しわけ……ございません。 アルベルト様の怪我は……私のせいです」


俯き、涙交じりに謝ると突然アルベルトに抱きしめられた。


「何を言う? お前は何も悪くないぞ? だが……俺の為に泣いてくれているのか?」


「は、はい……」


コクリと頷くと、私を抱きしめるアルベルトの手に力が込められる。


「大丈夫だ。どんな大怪我をしたって……お前が俺を治してくれるのだろう?」


アルベルトが私の髪を撫でながら優しい声で尋ねてくる。それは黄金の果実があるからなのか、それとも私が錬金術を使えることを知っての上で尋ねているのか分からないが……


「は、はい……アルベルト様がどのような大怪我を負っても……か、必ず……私が治して差し上げます……」


「ああ、頼む」


私は少しだけ……アルベルトの腕の中で涙を流すのだった――




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