第2章 179 また後ほど
「あ、あの……アルベルト様……?」
突然抱きしめられ、戸惑いしかなかった。
「お前が助けてくれたのだな? ありがとう。てっきり俺は……お前に……」
そこで言葉を切るアルベルト。え……? 今、アルベルトは何と言おうとしていたのだろう?
「アルベルト様、今何と……」
すると、アルベルトは私から身体を離すと両肩に手を置いてきた。
「クラウディア、その格好……もう夜になるというのに何処へ行こうとしていたのだ?」
こちらのほうが聞きたいことが山ほどあるのに、何故かアルベルトが質問してきた。
「はい。今から聖地に行こうとしていたのですが、午前中に聖地に入ろうとしたのですが神官たちに止められてしまったからです。カチュアが祈りを捧げているからだと言われて」
「何? ひとりで聖地に入ろうとしたのか?」
アルベルトの顔が険しくなる。
「いえ、まさか。ユダと一緒に聖地に入ろうとしていました」
「チッ……また、ユダか……」
え? 舌打ち? まさか……
「アルベルト様。あの……」
「ところでクラウディア、何故聖地に行こうとした?」
「それは隠し部屋に置いておいた黄金の果実が今朝、消えていたからです。それどころか、アルベルト様! 一体今迄何処で何をされていたのですか? しかもあの背中の傷はどうしたのですか!?」
つい、興奮のあまり大きな声を上げてしまった。すると、アルベルトがフッと笑った。
「……珍しいな。お前が俺の前でそんな慌てた態度を取るなんて。うん、新鮮でいいな」
「アルベルト様、はぐらかさないで下さい。今もユダやハインリヒたちはアルベルト様の行方を探しているのですよ」
「言われてみれば確かにそうだな。それでは先に俺が無事に戻ってきたことを説明したほうがいいだろう。とりあえず……皆には突然思い立って、お忍びで領地の様子を見に行っていたとでも説明しておくことにするか」
アルベルトは何処か楽しそうに見える。
「……でも、それは嘘ですよね?」
「ああ、そうだ。とりあえず俺が無事に戻ったことを知らせた後で……お前には本当のことを話すことにしよう。さて、それでは俺は執務室に戻ることにするよ」
そしてアルベルトは立ち上がると部屋を出ていこうとし……私は慌てて止めた。
「お待ち下さい! アルベルト様!」
「どうした? そんな大きな声をあげて」
不思議そうに振り向くアルベルト。
「あ、あの……まさか、そのままの格好で廊下に出られるつもりですか?」
アルベルトは上半身裸の状態だ。
「……確かに少し……この姿はまずいか。だがな……」
アルベルトは床に置かれた血に塗れたシャツと上着を見つめる。
「はい、あの服を着て出るのは流石に……」
「まぁ、別にいいだろう。他の部屋から出てきたならいざしらず、お前の部屋から出るのだから。仮に誰かに見られてもクラウディアの部屋にいたと言えば、周りも納得するだろう」
「え……?」
アルベルトの言わんとしている言葉の意味に気づき、思わず顔が赤くなる。
「それでは俺は行くよ。後ほど会おう」
アルベルトは笑みを浮かべると、その姿のまま部屋を出ていってしまった。
――バタン
扉が閉じると、私はため息を付いた。
「執務室に戻る間に、誰にも会わなければいいのだけど……」
そう、思わずにはいられなかった――




