第2章 176 新しい秘薬
頁をめくっていると、役立てそうな錬金術が見つかった。
それは自分の姿を一時的に消すことが出来る錬金術だった。
「効果は飲んで約五時間……濃度を薄めることによって、時間を短縮することも可能……これだわ……」
この秘薬を作れば、姿を消して聖地に入り込むことが出来る。
「もう、この薬に頼るしか無いわ……」
けれど、この薬を作ったことは一度もない。祖母の日記帳には複雑な術式が描かれている。
「どのくらいの時間で出来上がるか分からないけれど……」
部屋の時計を見ると、そろそろ正午になろうとしている。
「どうしよう……誰かが部屋を訪ねてくるかもしれないわ……」
錬金術を行っている姿を見られるわけにはいかない。それどころか術式を組んでいる最中に部屋に入ってこられれば、どのような危険が伴うか分からない。
「こんなことなら、ユダに待っていてもらって伝言してもらえば良かったわ……」
けれど、悩んでいる時間はない。
この錬金術を仕上げるのに、どのくらい時間がかかるのか全く未知の世界。最悪今夜中に終わらせることが出来ないかもしれない。
「仕方ないわね……」
便箋を取り出すと、ペンを走らせた――
「……これでいいわね」
扉には『許可するまで入室禁止』と書いた便箋が貼られている。これで誰かが部屋に入ろうとはしないはず……そう信じたい。
私は部屋に入ると鍵を掛けた。
錬金術を行うための質素な服に着替えた私の前には必要な道具が置かれている。
「……さて、やるしか無いわね……」
私は早速、錬金術を開始した――
****
「……ハッ……」
気づくと、部屋の中はすっかり薄暗くなっていた。空は夕闇にすっかり包まれている。
そして私の前にはテーブルの上に置かれた白く輝く液体のボウル。
「……完成……したのね……」
そのまま、床に座り込みたくなるような酷い倦怠感だ。
「今……何時なのかしら……」
ふらつく頭で時計を見ると、時計の針は六時半を過ぎたところだった。
「一体、いつの六時半なのかしら……」
まさか、日付が変わっていたら……!
不安な気持ちを押し殺し、出来上がった液体を小瓶に移す。
「そうね……この液体……【クリア】と名付けましょう」
私は【クリア】を全て小瓶に移すと、すぐに部屋の扉を開け……驚いた。
なんと扉の前にはリーシャを始め、マヌエラ、エバ、そしてユダにハインリヒが勢ぞろいしていたからだ。全員が心配そうにこちらを見つめていた。
「え……? 皆、一体どうしたの……?」
すると――
「クラウディア様! どうしたのではありません! ど、どれほど心配したと思って……」
リーシャが目に涙をためて駆け寄って来ると、私の手を強く握りしめてきた。
「リーシャ……」
「クラウディア様がお部屋に閉じこもってから、六時間以上音沙汰が無くて……どれほど心配したことか……」
リーシャは目に涙を浮べながら話しかけてくる。
「え? 六時間……六時間なのね?」
良かった……日付が変わっていなくて……
心の中で安堵のため息を付いた。
「クラウディア様。一体中で今迄何をされていたのですか? しかもそのお召し物は……」
マヌエラが尋ねてきた。
「え、ええ……少し体調が優れなくて、今迄横になっていたのよ。この服は楽だったから着替えただけなの」
その時、私はユダの視線を感じた。彼は口を閉ざしたまま、心配そうな顔を向けている。
……恐らく、彼だけは私が今迄何をしようとしていたのか分かったのかもしれない。
「とにかく、何事も無くて安心しました。……あまり心配掛けさせないで下さい」
ハインリヒが眉をしかめる。
「ええ、ごめんなさい。ところでアルベルト様はどうなったのかしら?」
すると、その場にいた全員の顔が曇った――




