第2章 173 ユダへの頼み
「クラウディア様……一体これからどうされるおつもりですか?」
自室に向かって歩いているとユダが心配そうに声を掛けてきた。
「ユダ……」
ユダは護衛騎士だけど、これ以上彼に余計な心配を掛けさせたくない。ただでさえ、私のせいで周囲から目をつけられているというのに……
「そんなに心配しなくても大丈夫よ、ユダ」
「ですが……」
「私のことよりも、気がかりなのはアルベルト様よ。昨日から行方が分からないなんて……ただごとではないわ」
本当に、彼は一体何処へ行ってしまったのだろう?……無事でいるのだろうか?
「……確かにそうですね」
「ユダ、あなたにお願いがあるのだけど」
私はユダを見上げた。
「はい。クラウディア様のご命令とあれば、どのようなものでもお受けいたします」
「なら、あなたもアルベルト様の行方を捜して貰えないかしら? 他にもハインリヒやヤコブ達にも声を掛けて貰いたいの」
「確かに陛下を捜すのは重要事項ですが……そうなると、クラウディア様の護衛はどうなるのです?」
「私なら大丈夫よ。戸締まりをしっかりして部屋から一歩も出ないようにするから」
「ですが……」
まだユダは不安そうに私を見ている。
「そんなに心配ならザカリーに臨時の護衛をお願いしようかしら?」
「ザカリーですか? しかし……アイツはクラウディア様を牢屋に入れたことがある人物ですよ? 正直言うと、俺は虫が好かないです」
苦々しげな顔をするユダに驚いてしまった。
「え? ユダ……まだ、あのときのことを根に持っているの?」
「別に根に持っているわけではありませんが……」
「でも、ザカリーはまだ訓練の途中だったわね……私の為に中断させるわけにはいかないわ。やめておきましょう」
それに監視されていると、色々自由に行動することができない。聖地に入れないとなれば別の対策を考えなければならないからだ。
「ですが、それではクラウディア様お一人で自室で過ごすことになってしまいますが? あまりに危険ではないでしょうか?」
「大丈夫よ、私には錬金術があるから」
「なる程、身を護る錬金術があるというわけですね?」
ユダが笑顔になるけれど……私は身を護れる錬金術など知らない。ただユダを安心させるためについた嘘だ。
「ええ。だからユダはアルベルト様を捜すことに全力を捧げてちょうだい」
「はい、承知いたしました」
ユダはようやく納得してくれたように返事をした。
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「それでは、早速ハインリヒ殿とヤコブたちにも陛下が行方不明になったことを伝えて捜索にあたります」
自室の前に辿り着いた私にユダが私に言う。
「ええ。お願いね。私は、黄金の果実の件で対策を考えるから」
「分かりました。 陛下のことはお任せ下さい。クラウディア様はくれぐれも戸締まりには気をつけて下さい」
ユダはそれだけ言うと、足早に去って行く。私はその後姿を見届けると部屋の扉を閉じた――




