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第1章 1 回帰した私

 次に目を開けた時、私はベッドの上だった。


「え…?」


何処かで見慣れた広々とした高い天井、それにいつもとは違う寝心地の良いベッド。


「こ、ここは…?」


ベッドに寝そべったまま、見覚えがある天井を見つめながら先程自分の身に起こった出来事を思い返していた。


確か、私は子供達を駅まで車に乗せて…その帰り道に…。


「そうだわ…。私は信号無視してきたトラックに車をぶつけられて事故に…。もしかしてあの後、病院に運ばれて助かったのかしら…?」


でも、あの事故の状況から助かったとは思えないけれども…。


視線だけキョロキョロ動かして辺りを見渡してみた。部屋の中にはヨーロピアン調のアンティーク家具が並べられ、とてもでは無いが病院には見えない。

それに…何処か見覚えがある部屋には違和感を感じる。


何より一番不思議だったのはあれ程の怪我だったにも拘わらず、身体が痛む場所は何処にもない。


「変ね…」


ゆっくり身体を起こして、改めて部屋の中を見渡した。

するとベッドから離れた位置に大きな姿見が置かれていることに気がつき、何気なくそちらを振り向いた時…私はギョッとした。

鏡の中には見覚えのある人物が映し出されていたからである。


「え…う、嘘でしょう…?」


試しに右手で頬に触れてみると、鏡に映る人物は同じ動きをする。


「そ、そんな…!」


慌ててベッドから飛び降り、素足のまま鏡に駆け寄った。


「ま、まさか…」


私の声が上ずる。

鏡に映し出されたのは波打つプラチナブロンドの髪に神秘的な緑の瞳の女性…。

橋本恵の前世の姿…『クラウディア・シューマッハ』だったからである。


「ど、どうして…こんなことに…」


震えながら鏡に触れ、もう一度改めて部屋の中を見渡した。


「あ…!思い出したわ…!」


そう、この部屋は私がアルベルト・クロムに嫁ぐまで暮らしていた自分の部屋だったのである。

という事は、私は再び前世の…しかも結婚前の自分に再び回帰してしまったことになるのだ。


「そんな…どうし…て…?」


目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

もう二度とこの世界には戻りたくはなかったのに。

一度この世界で断頭台で処刑されるという不名誉な死を遂げ…新しく生まれ変われた時は本当に嬉しかったのに。


 運命の人と出会い…結婚して2人の子供にも恵まれ、とても幸せだったのに…またこんな世界に戻ってしまうなんて…。


「あなた…葵…倫…もう…もう二度と…あなた達には会えないの…?」


悲しくて涙が後から後からこみ上げてくる。


神様、どうしてこんな残酷な目に遭わせるのですか?


日本人として生まれ変わってからは心を入れ替えて…真面目に、正直に生きてきたのに…。


「う…うっうっ…」


鏡の前で嗚咽していたその時―。



コンコン


扉がノックする音が聞こえてきた。


「だ、誰っ?!」


溢れる涙を手の甲でゴシゴシと擦って、扉に向かって尋ねた。


『私です。メイドのリーシャです』


「え?!リーシャッ?!」


その時、私はおぼろげだったクラウディア・シューマッハの全ての記憶が鮮明に蘇ってきた。


慌てて扉に駆け寄り、大きく開け放った。


「キャッ!ど、どうしたのですか?クラウディア様」


そこには栗毛色の髪を肩先で切りそろえた懐かしい人物…メイドのリーシャが驚いた様子で立っていた。


「リ、リーシャ…」


思わず感極まって、再び涙が溢れてきた。


「クラウディア様…?」


首を傾げるリーシャ。


「リーシャッ!」


気づけば私はリーシャを抱きしめ、声を殺して泣いていた―。


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