第2章 172 断ち入り禁止区域
執務室を出た後、私はユダの付き添いで自室に戻って来た。
「ではクラウディア様。俺はここでお待ちしております」
「ええ。ありがとう。すぐに用意してくるわ」
「はい、分かりました」
扉の前で頷くユダをその場に残し、私は急いで部屋に入るとユダが扉を閉めた。
「急がないと……」
隠していた【ヒール】をポケットに忍ばせると、メッセンジャーバッグを肩から下げて部屋を出た。
「お待たせ、ユダ」
「……いえ。大丈夫ですが……」
ユダは何故かじっと私を見つめている。
「何? どうかしたの?」
「いえ、てっきり着替えて来られるのかと思っていたので……まさかそのお姿で聖地に向かわれるのですか?」
私が着ているのは白いブラウスにハイウエストの紺色のロングスカートに同系色のボレロを羽織っている。確かに聖地に向かうにはあまり好ましい服では無いが……
「以前聖地に向かったような平民女性のような姿で城内を歩いていたら、かえって目立ってしまうでしょう?」
「確かにそうですね……この城にはあまりにもクラウディア様の敵が多すぎますから。それなのに、俺はクラウディア様をこの国に……連れて来てしまいました」
ユダが悔し気に呟く。
「もういいわ、そんな事気にしないで。ユダは命令通りに任務を遂行しただけなのだから。それよりも急ぎましょう」
「ええ、そうですね」
そして私とユダは連れ立って聖地への入り口となる神殿へと向かった――
****
「何だって! 何故聖地に入れないのだ!」
ユダの声が森の中に響き渡る。
「それは宰相の命令だからだ」
「今は聖なる巫女が聖地で祈りを捧げているので、神殿関係者以外は立ち入り禁止となっているのだ」
私達の前に立ちはだかった神官たちが私達を睨みつけている。
「決して邪魔は致しませんので、何とか入れて頂けないでしょうか?」
「いや、駄目ですな。どうしても聖地に入りたいのであれば、理由をリシュリー様に伝えてみればいかがです?」
ひとりの神官が意地悪そうな目を私に向けて来る。
「貴様! この方を誰か分かっていてそのような口の利き方をするのか!」
ユダが激怒しながら神官の胸倉をつかむ。
「やめて! ユダ! 乱暴はいけないわ!」
「クッ……」
私の言葉にユダは悔しさを滲ませながらも手を離した。
「全く……これだから成り上がりの騎士は無礼で困る」
神官は襟元を正しながら、吐き捨てるように言った。
「お前たちこそ、分かっているのか! この方は……!」
「ああ、よく知っております」
「敗戦国の姫でしょう?」
何処か小ばかにした様子で私を見るふたりの神官。彼らの背後には十人程の騎士達が控えている。
……これでは、もう聖地に入るのは諦めた方が良さそうだ。
「ユダ。もういいわ……行きましょう」
「え!? クラウディア様? 何を仰っているのです!?」
「聖地に入れないのであれば、ここにいても意味が無いもの」
「ですが……」
「いいの、何とか考えるから」
私はユダにだけ聞こえる小声で言った。
「は、はい……分かりました……」
そして私は悔しさをにじませるユダを連れて聖地を後にした――




