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第2章 167 エバの心配

 宰相が部屋を出て行き、一人になった。


「ふぅ…‥」


崩れるようにソファに座った。ほんの少し話をしただけなのに精神的に疲れてしまった。


「まさか私が皆を引き連れて『裏通り』に行ったことが既に宰相の耳に入っているのかしら」


背もたれに寄り掛かり、ポツリと呟いた時――


「クラウディア様。もしかしてリシュリー様はもうお帰りになられたのですか?」


振り返るとトレーにお茶を乗せたエバが驚いた様子で立っていた。


「ええ、そうなのよ。用件だけ告げて行くとすぐに帰ってしまったわ。ごめんなさいね。折角お茶の用意をしてもらったのに」


「いえ。それは全然構わないのですが……大丈夫ですか? 随分疲れた顔をされておりますが……」


エバが心配そうに尋ねる。


「大丈夫よ、ありがとう。そうだわ、折角2人分のお茶があるのだから一緒に飲まない?」


「え? よろしいのですか?」


「ええ。勿論よ。さ、座って」


先程迄宰相が座っていた向かい側の席をエバに勧めた。


「それではお茶にしましょうか?」


「はい」


嬉しそうに返事をしたエバは美味しそうに紅茶を飲んでいる。その姿を見ているとふと、娘の葵を思い出してしまった。

最近は毎日が目まぐるしく、かつて自分が橋本恵だった頃を忘れそうになっている。


こんなことではいけないのに……私は日本に残してしまった大切な家族を絶対に忘れてはならないのに。


「クラウディア様、差し支えなければリシュリー様はどのようなご用件でいらしたのか教えて頂けますか? 私……クラウディア様のことが心配で……」


「ありがとう、エバ。それがカチュアさんとの勝負が明日に決定したと告げに来たのよ」


「え⁉ いきなり明日ですか? あまりにも急な話ではありませんか! どうしてもっと前もって教えて下さらないのでしょう!」


エバが憤慨した様子を見せた。


「そうよね。カチュアさんにも今日話をしたと宰相は言っていたけれども……」


「そんなの嘘に決まっているではありませんか! ……クラウディア様のことですから大丈夫だとは思いますが……どうかお気を付けください」


「ええ、ありがとう」


そして私は紅茶を口にした――




****



 今朝はアルベルトから朝食の席に呼ばれなかった。


「珍しいこともありますね。最近は朝食を陛下とご一緒する機会がありましたのに」


給仕をしながらエバが話しかけてきた。


「そうね。アルベルト様にはお話したいことがあったのだけど」


朝食の席でカチュアとの勝負が明日に決まったことと、『黄金の果実』を貰っておきたいと話をしようと思っていたからだ。


「恐らくお忙しいのでしょうね……」


「まだ国王になられて日も浅いので、色々大変なのだと思うわ」


アルベルトは宰相の抱えていた仕事も半分近く取り上げたため、かなりの仕事を抱えている。あまり睡眠時間もとれていないかもしれない。


カチュアとの勝負が終わったら、自分の出来る範囲でアルベルトの手伝いをしてあげよう。



 このときの私はまだ何も気づいていなかった。


何故、今朝突然宰相が尋ねて来たのか。そして……アルベルトが不在のわけを――


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