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第2章 164 頼み事

「もしや、リシュリー宰相のことでしょうか?」


すると、途端に長老の顔に笑みが浮かぶ。


「ええ、そうです。その通りです。やはり貴女は御存知でしたか……貴族の方なのですよね?」


「え? ええ……そのようなものです」


曖昧に返事をする。


「その人物は今からひと月程前に、突然多くの兵士を引き連れて、ここに現れたのです」


「一体、彼は何のためにここへやってきたのですか?」


宰相のことを良く思わないハインリヒが険しい表情で尋ねた。すると中年男性が答える。


「この路地裏を再開発するらしく、出て行くようにと命令されました。しかし、ここ

を追い出されたら我らの居場所が無くなってしまう。そこで他に場所を提供してくれるのか尋ねたのです」


「何と言われたのです?」


ユダが質問した。


「その人物は言いました。『お前たちのような者どもに、与える住処などない、自分たちで勝手に探せ』と……笑いながら」


男性は悔しそうに唇を噛んだ。


「何て酷い……今までにも立ち退き命令が出たことがあるのですか?」


今度はマヌエラが尋ねた。


「いや……ワシはもう二十年以上、ここで暮らしているが今迄一度もそのようなことは言われたことはありません。しかし最近現れた聖女が、『ここには悪い気が溜まっているから再開発した方が良い』と言ったそうです」


「そうだったのですか……」


カチュアのことだ。しかし、何故彼女はそのようなことを言ったのだろう? もしかすると、回帰前にも同様のことがあったのだろうか……?


「これに猛反発した者達は、兵士たちの手によって連行されてしまいました。酷い目に遭わされていなければ良いのだが……」


「それは心配ですね……」


長老の話に相槌を打つ。


「宰相と名乗る人物は、今すぐに退去するのはさすがに難しいだろうからと、二カ月の猶予を与えると言って去って行きました。その話で金銭的に余裕のある者たちの大半はここを去って行きましたが……残された者達は行く場も無く、未だにこの地にとどまっている状況です」


何て酷い話なのだろう? 出て行かせるのであれば、彼らの新しい居場所を提供するのが筋では無いだろうか?

この話をアルベルトは知っているのだろうか……?


「お願いします! 我等底辺の者達の話など、彼らは聞き入れてはくれません! それどころか門前払いです! けれど貴族の貴女であれば、宰相に会うことも出来るでしょう? 我らに食事を提供して下さるほどの方なのですから……親切な方とお見受けしました。どうぞ、我等の訴えを代わりに伝えて貰えませんか? お願いします!」


長老と男性は私達に懇願してきた――




****



 路地裏からの帰り道――


「クラウディア様、先程の長老の話ですが……どうされるおつもりですか?」


馬車の中でマヌエラが尋ねてきた。


「あの人たちを見過ごすわけにはいかないわ。この国の次期王妃として」


いつまで私はこの国にとどまることになるか分からないが……それでもいずれはアルベルトと婚姻するのだ。


「宰相に直談判するのですか?」


リーシャが質問する。


「その前に、アルベルト様に相談するわ。宰相が私の話を聞き入れるとは思えないから。この国の国王はアルベルト様なのだから」


私は馬車から見える窓の景色を見つめた——




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