第2章 161 誤解の理由
その女性は昨日私が万能薬を飲ませて病の治療をした人物だった。彼女はトミーを連れている。
「お願いです、その人たちに乱暴な真似はしないで下さい!」
彼女は余程慌てて駆けつけて来たのか、荒い息を吐いている。
「貴女は……!」
言葉にしかけたそのとき、最初に話しかけて来た老人が女性に声を掛けた。
「モリー! 何故止めるのだ⁉ この者達は我らを追い出しに来たのだぞ!」
「違う! 俺たちはそんな用件で来たわけでは無い!」
ユダが咄嗟に言い返す。
「何を言うか! お前たちは以前も大勢でここへ押しかけてきて、強引に我等を追い払おうとしたではないか!」
「そうだそうだ!」
「もう二度と騙されないからな!」
え? 彼らの話に耳を疑った。今の話は本当なのだろうか?
「違うよ! あのお姉ちゃんはお母さんを助けてくれたんだよ!」
すると、トミーが私を指さした。
「ええ、そうです! 私は昨日まで病で床に伏しておりました。ですが、昨日そちらの方にお薬を頂いて病が治ったのです!」
モリーと呼ばれた女性が必死に訴えて来る。
「確かに……そう言えば、モリー。あんた病気で寝込んでいたじゃないか」
木の棒を手にしていた女性が思い出したかのように、モリーを見つめる。
「確かに言われて見れば……」
鍬を構えていた男性は首を捻る。
「この方たちは私の命の恩人です。また数日以内に、ここへ来ると約束されたのです。でも、まさか……本日いらしていただけるとは思っていもいませんでした。
モリーは私を見て、笑みを浮かべた。
「はい、出来るだけ早く皆さんのお役に立ちたかったからです」
「一体……どういうことだね? 話がさっぱり見えないのだが……」
老人はこちらを向くと、尋ねて来た。先程のように敵意を剥き出しにした目では無かった。
「はい、皆さんに温かい食事を提供したいと思って本日はこちらにうかがいました」
すると私の言葉に、周囲を取り巻いていた人々が騒めいた。
「何だって? 食事だと?」
「一体どういうつもりだ……?」
「でも、ただで食べられるんでしょう?」
「最近あまりまともな食事をしていなかったからな……」
「皆! 落ち着け!」
老人が一喝した。途端にシンと辺りは静まり返る。次に老人は私に厳しい目を向けてきた。
「何を考えているのだ? 食事を提供するなどと言って、後で高額な金を請求するか、もしくは何か要求してくるつもりではないだろうな?」
「いいえ、決してそのようなつもりは一切ありません。私はただ昨日出会ったトミーがとても痩せていたのが気になったからです。もしかして、満足のいく食事を得られていないのではないかと思って、食事を提供しにやってきました。ついでに皆様にもご馳走してあげたいと思ったからです」
すると、子供たちが次々に訴えて来た。
「僕、お腹いっぱい食べたい!」
「私も!」
「俺だって食べたいぞ!」
「ええ、勿論よ。皆で協力して料理を作りましょう?」
私は子供達をこの計画にまきこむことにした――




