第2章 157 アルベルトへの申し出
「何? 『路地裏』に住む者達に炊き出しをしたいだと? お前自らが?」
アルベルトが驚いた様子で私に問いかけてきた。
城に戻ってからすぐに、私はアルベルトの執務室を訪れていた。
「はい、そうです。お許し頂けますか? 先程も申し上げた通り、路地裏に住む人々の生活水準はとてもまともなものではありませんでした。あの様子では私の祖国の領民たちと何ら変わりない貧しさです」
『レノスト』国の領民たちにもいずれ救いの手を差し伸べたい私はさり気なく祖国の話も持ち出した。
「確かに、お前の気持ちは分かったが……それにしても……」
アルベルトはため息を付いた。
「リシュリーの奴……まさか横領までしていたのか? そもそもあの男に財政管理を先代から任せていたこと事態が間違いだったようだ……。いや、それ以前に俺がもっと人々のことを気にかけていれば……」
「え? それは一体どういうことですか?」
まさか宰相の名前がここで出てくるとは思わなかった。
「この王都には『裏通り』と呼ばれる貧民街があるのは知っていた。レノスト王国との戦争により、更に生活が困窮しているとの報告も入っていた。するとリシュリーが自国庫を使用して彼らの生活を改善させますと言ってきたのだ」
「そうだったのですか……」
「予算を何処にどれだけ使用したのかも、報告がされていた。だから安心していたのだが……恐らく自分の私欲を肥やしていたのだろうな?これは信用できる者に精査させた方がいいな。しかし……周囲でも嘘の報告をしていたとは……」
アルベルトは悔しげに唇を噛む。そして私を見た
「クラウディア。お前も気付いているだろうが、この城では派閥が出来上がっている。城の半数の者達は皆宰相側についていると言っても良いだろう。ましてや俺はまだ戴冠式すら行っていないのだから尚更だ。はっきり言ってしまえば俺もお前と同様敵に囲まれているようなものなのだ」
私はなんと答えればよいのか分からず、黙って聞いていた。回帰前は城の者達は全員アルベルトに従っていると思っていたけれど上辺だけだったのだろうか?それとももしかして……あまり考えたくは無いが、何者かに操られていた……?
「炊き出しの許可は与えよう。ただし、あまり少人数では行くな。俺が人選して供につけさせようか?それとも……」
「いえ、大丈夫です。心当たりの人たちがいますから」
ただ……実際に協力をしてくれるかどうかは分からないけれども――
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執務室を出ると、扉の前にはユダとハインリヒが待っていた。
「どうでしたか? クラウディア様。陛下から許可は下りましたか?」
ユダが真っ先に尋ねてきた。
「ええ、許可はいただけたわ。でも万一のことを考えて少人数ではいかないようにと言われたの」
「クラウディア様、当然俺はお供いたしますよ?」
「私もお供致します」
ユダに引き続き、ハインリヒも同意した。
「でもいいの? 貴方は私が『路地裏』へ行くのを反対していたじゃないの?」
ハインリヒに尋ねると、彼は首を振った。
「確かに、反対はしましたが……止めても行かれるのでしょう? だとしたら私はそれに従うまでです。何より、クラウディア様の専属護衛騎士ですから」
「俺だってそうですから」
「ありがとう、ハインリヒ、ユダ。では行きましょう」
そして私は二人を連れて、その場を後にした――




