第2章 156 次期王妃としての役目
女性が万能薬を飲み干す様子を私たちは固唾を飲んで見守っていた。すると……。
「あら……?」
女性は怪訝そうに首を傾げた。
「お母さん、どうしたの?」
トミーが不思議そうに首を傾げる。
「ええ。何だかとても気分が良くなってきたわ。今まで胸のあたりに息苦しさを感じていたのに、何とも無いの。それどころか、今すぐ起き上がって歩き回ることが出来そうよ?」
「本当ですか? それは良かったです」
私が声を掛けると、女性はお礼を述べて来た。
「何処のどなたかは存じませんが、色々とありがとうございます。見ず知らずの者の為に果物を買うお金を支払って下さったばかりか、こんなに良く利くお薬までくださるなんて。何とお礼を申し上げれば良いか……」
「いいえ、どうか気になさらないで下さい。まだ年端もいかない小さな子供が必死でお母さんを助けようとする気持ちに心を打たれただけですから。でも本当に良かったです」
背後ではハインリヒが「そんな馬鹿な……」と呟いている声が聞こえる。
「何のおもてなしも出来ませんが、せめてお茶でも飲んでいって頂けますか?」
女性がベッドから起き上がろうとするところを私は止めた。
「いいえ、そのお気持ちだけで充分です。まだ病み上がりなのですから、どうぞ今日はごゆっくりお休み下さい。また数日以内にこちらに伺いますから」
「「「え⁉」」」
私の言葉にリーシャたちが小さく驚きの声を漏らす様子が分かったが、私は聞こえないふりをした。
「まぁ……そうなのですね? 分かりました。お待ちしておりますね?」
女性はにっこりと笑みを浮かべた――
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「クラウディア様。一体、どういうことなのです? 何故またあの家を訪れようとするのですか? もう用はありませんよね?」
家を出て、歩き始めるとすぐにハインリヒが咎めるような口調で声を掛けて来た。
「ええ、そうです。今度ばかりは私もハインリヒ殿の意見に賛成です。あまりここに出入りするのは危険です」
「クラウディア様……私も同意見です。ここは空気も悪いですし、治安も良くないですよ?」
リーシャもユダもハインリヒと同じことを言う。
「違うわ。私はまたこの『路地裏』を訪ねるという意味で言ったのよ?」
「同じことです。私は反対です。御覧ください。今だって目つきの悪い者達がこちらを伺っているではありませんか?」
ハインリヒが周囲を警戒している。
「それは、今の暮らしが凄惨なものだからではないの? 生活水準が改善されれば、治安だって良くなるわ。私は彼らを救ってあげたいのよ。それが次期王妃になる私の務めだと思っているから」
「救うって……。まさか旅の途中で行ってきたことを、ここでもされるおつもりですか?」
ユダが目を見開いて私を見た。
「そうよ。まずは手始めに彼らの食を満たしてあげたいと思っているの」
「食を満たす……?」
ハインリヒが首を傾げる。
「ええ、すぐに城へ戻りましょう。炊き出しの準備をしたいから」
私は三人を振り返ると笑みを浮かべた――




