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第2章 154 知らなかった現状

「クラウディア様、一体何を仰っているのですか? この子供の家に行くなど、おやめ下さい」


 私の言葉にハインリヒが反応した。


「何故私がこの子の家に行ってはいけないの?」


「私は御自身の立場を考えて下さいと申し上げているのです」


「俺は反対しません。クラウディア様がそうされたいと仰るのであれば従いますよ」


「ユダ! お前、一体何てことを言うのだ⁉」


 ハインリヒはユダを睨みつけた。


「ハインリヒ殿、貴方はクラウディア様がどのような方か知らないようですね? だが俺は知っていますよ? クラウディア様は困っている人々を見過ごすことが出来ない高潔な方であるということを、俺は旅の間にこの目で見てきましたからね」


「……っ」


 ユダの言葉に、ハインリヒは拳を握りしめると私を振り返った。


「分かりました。それでしたら当然ついて行きますからね」


「俺も行きます」

「私もお供いたします」


 ユダとリーシャも頷く。


「分かったわ。それではお母さんのところへ皆で行きましょうか?」


 私は男の子に声を掛けた。


「うん」


 男の子は嬉しそうに無邪気な笑顔を見せた――



**


 私たちは土埃が酷い路地を歩いていた。足場の悪い路地を挟むように建てられたバラック小屋は酷い有様で、中には扉すらないのか入り口にボロ布を掛けているだけの小屋もあった。


 うつろな目で木箱や道端に座り込んでいる人々も見かけたものの、私達に声を掛けて来る者すらいなかった。

 恐らく、私達の身なりも粗末な物だったからなのかもしれない。私やユダ、それにハインリヒは麻布のマント姿だ。一番まともな服装に見えるのはリーシャだけであった。


 そのとき、道端に座り込んでいた老女が突然立ち上がり、フラフラと私たちの方へと近づいて来た。


「我々に何の用だ?」


 ハインリヒが尋ねると、老女がリーシャに声を掛けて来た。


「お願いがあります……どうか、この哀れな私に食べ物を恵んで下さりませんか?」


「え? わ、私に言ってるのですか⁉」


 リーシャは驚き、助けを求めるかのように私を見た。そこで私は老女に話しかけた。


「ごめんなさい、おばあさん。食べ物をあげたいところだけど、今私たちは何も持っておりません」


 すると、途端に老女の顔つきが変わる。


「ああ、そうかい。本当にケチな連中だね。あんた達も所詮、私達と同じ立場の人間だったってことだね。見慣れない顔だったから、てっきり表通りの者達だとばかり思っていたのに……!」


 それだけ告げると、踵を返して行ってしまった。


 一方、リーシャたちは呆気に取られている。


「い、一体何だったのでしょう? 今のおばあさんは……」


「態度が豹変したぞ?」

「もしや演技だったのか?」


 ユダもハインリヒも首を捻っている。すると男の子が教えてくれた。


「あのおばあちゃんは、いつもあそこで誰か通るの待ってるんだよ。それで食べ物を貰ってるの」


「え? そうだったの?」


 振り返ると、先程の老女はまたしても同じ場所に座り込んで虚ろな目で細い路地を見つめている。

 こんな貧しい路地裏生活では通り過ぎる人々だって、皆余裕が無いだろう。


「さっきのおばあさん、『表通り』と言っていたわね」


 歩きながら誰に尋ねるともなしに、ポツリと呟くとユダが教えてくれた。


「『表通り』と言うのは、先程賑わっていた大通りのことを指しているのです」


「そうなのね……」


 物乞いなら表通りの方が恵んでくれる可能性が高いだろうが……ここに住む人々は容易に行くことも出来ないのだろう。

 路地裏にも店があることはあるが、品数が少ない。恐らく品質的にも大分劣っているだろう。


 まさか、『エデル』にもこのような場所があったなんて。アルベルトはこのことを知っているのだろうか?

 

 私は前を歩く小さな男の子の後姿を見つめながら思った。


 城に戻ったら、路地裏生活者の話をアルベルトにしなければ――





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