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第1章 26 傷病者の町『クリーク』 3

「スヴェン、一体どういうつもりなの?」


突然スヴェンが私の前に立ちはだかり、『クリーク』の町民達に向って声を荒げる姿に戸惑いを感じずにはいられなかった。


「あいつ等が敵意のある目で姫さんを睨んでいるから助けに来たんだ。俺は姫さんを守るって決めているからな」


「スヴェン…」


そして再びスヴェンは町民たちに視線を移し、睨みつけた。


「チッ!あいつ…余計な真似を…っ!」


ユダが腹立たしげに言っているが…まさにその通りだ。スヴェンの態度に彼等はますます敵意を顕にこちらを睨みつけている。


ここは…私が何とかしなければ。


「スヴェン…お願い、落ち着いて。ここは私に任せてあの人達と話をさせてもらえないかしら?」


「だが、姫さん…!あいつ等凄い目で姫さんを睨んでるんだぜ?あんな敵意のある眼差しに姫さんが晒されるなんて…俺は耐えられないっ!」


スヴェンはこちらを振り返ることなく、叫んだ。


「ええ、分かっているわ…。でもあの人達は私を恨んでも当然なのよ。お願いだからどうか私に話をさせて?」


「姫さん…!」


スヴェンが私を見た。


「…クラウディア様の言うとおりにするんだ」


ユダが意外な台詞を口にした。


「お前っ…!姫さんを見捨てる気かっ?!」


険しい顔でユダを睨みつけるスヴェン。


「スヴェン、お願いよ」


これ以上あの人達に敵意を向けるわけには行かない。

私は頭を下げた。


「姫様…!」


その時、とうとう町民たちは痺れを切らしたのか口々に文句を言い始めた。


「おいっ!いい加減にしろっ!」

「今更何しに来たんだっ!」

「帰れ帰れっ!」

「この…人でなしめっ!」



「何だと…っ!」


ついにスヴェンが我慢できなくなったのか、右手で腰に差していた短刀を引き抜いた。


「やめてっ!スヴェンッ!」


とっさにスヴェンに飛びつくと、短刀を握りしめた彼の右腕を両手で必死に押さえつけた。これには流石に周りで見ていた人々も…スヴェン本人も驚いた。


「姫さん…っ!危ないじゃないかっ!」


狼狽えた目で私を見るスヴェン。


「駄目よ、お願い。スヴェン、どうか剣を抜かないで頂戴。私はこの町の人達に謝罪とお詫びをする為に『エデル』の人達に連れてきてもらったのだから!どうか…ここは私に任せて!お願いっ!」


必死でスヴェンに訴えた。


「え…っ!」


ユダの目が見開かれる。


私の言葉を耳にした町民達も驚いた様子でこちらを見ている。


「わ、分かったよ…姫さん…剣をしまうから…腕を離してくれるか?」


スヴェンはため息をついた。


「え、ええ…」


スヴェンから腕を離すと、彼は再び短刀を腰に差した。


「姫さん…もうあんな危険な真似はしないでくれるか?もし…姫さんが怪我でもしたら俺は…」


悲しげにスヴェンはを見た。


「ええ。ごめんなさい。もう二度としないわ」


スヴェンに頭を下げると、私は一歩前に進み出て『クリーク』の人々の耳に届くように声を張り上げた。


「皆様!私はクラウディア・シューマッハ。『レノスト』国の王女です!この度は私達王族が勝手に戦争を起こし…皆様を戦火に巻き込み…苦しめてしまいました。しかも敗戦した挙げ句…謝罪に来るのすら遅くなってしまい、大変申し訳ございませんでした!心よりお詫び申し上げます!」


そして私は頭を深々と下げた。


私が頭を下げたのを見て、その場にいた町民たちがざわめいた。


「おい。見ろよ…王族が頭を下げてるぞ?」


「フン!本当に王族かどうかも分からんぞ」


「ああ、身代わりの下女かもしれん」


「あんな貧しい服を着た王女がいるものか」



「クッ…ッ!」


背後では悔しそうにしているスヴェンの様子が手にとるように分かった。けれど、彼は我慢してくれている。

私が彼に、ここは任せて欲しいとお願いしたからだ。


すると…。


「お前たち!この方は本物の『レノスト』王国の王女、クラディア・シューマッハ様だ!戦争を引き起こした責任を取る為に、勝戦国である我等の国『エデル』へ人質妻として嫁ぐ旅の道中に立ち寄られたのだっ!我等が言うのだから間違いはないっ!この方の話を聞けっ!」


何と、あのユダが声を上げた―。



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