第2章 151 王都の裏事情
四人で再び町の大通りに出てくると、途端にリーシャが文句を言った。
「何なんですか? あの店主は。私たちはお客様なのにあんな態度を取るなんて! 私はもう二度とあの店では買いません!」
リーシャはかなり憤慨している。
「ああ、全くその通りだ。人がいなければ切り捨てていたところだ」
ユダはぎりぎりと歯を食いしばりながら、マントの下に装備していた剣を握りしめている。
「まさかユダと意見が合うとはな。私も危うく抜刀しそうになった。だが今の件は陛下に報告して、あの店は取り潰してもらうように進言しよう」
ハインリヒが恐ろしい言葉を口にした。
「ちょっと、待って三人とも。私は気にしていないから大丈夫よ。それにユダ、ハインリヒ。あまり危険な言葉は口にしないで。それに先程のことは絶対にアルベルト様には言わないで貰えるかしら?」
あのくらいのことで店を潰されては店主もたまったものではないだろう。
「クラウディア様! あのような失礼な態度を取られて悔しくはないのですか⁉」
「そうです! 客を盗人扱いするような店はこの王都にはふさわしくありません!」
ユダとハインリヒが興奮して声を張り上げる。
「いいのよ。それにあの店主さんの口ぶりでは過去に色々あったみたいじゃない」
回帰前の私なら彼らと同じように切れて、文句を言っていただろう。けれど前世の暮らしが私を変えた。
「申し訳ございません。私があの露店に行きさえしなければ……クラウディア様をあんな嫌な目に遭わせることは無かったのに……」
リーシャは目に涙を溜めて俯いた。
「え? リーシャ。もしかして泣いているの? 別にあれは貴女のせいでは無いのよ? だから気にする必要は全く無いのだから」
「「「ですが……」」」
口を揃える三人。
本当に私のことなら大丈夫なのに。けれど、他に気になることが出来てしまった。
「ところで聞きたいことがあるのだけど、さっきの店主が『路地裏の者』と言っていたけれども一体どういうことなの?」
ユダとハインリヒに尋ねると、二人は互いの目を見合わせ……気まずそうにハインリヒが説明してくれた。
「実は……ここ『エデル』は元々裕福な国ではあったのですが、『レノスト』王国との戦争で多少なりとも戦争被害が出たのです。そのことが原因で平民たちの間で貧困の格差が生じてしまったのです。そして貧しい平民たちは貧民街‥…先ほどの路地裏と呼ばれる場所に住んでおります」
「そ、そんな……」
まさか、そんな事態が起こっているとは思いもしなかった。戦争被害が出たのは敗戦した祖国だけだと思っていたのに。
でも、恐らく回帰前も同じ状況だったのだろう。けれど、私はアルベルトの気を引くことばかり考えて国民のことを何も知ろうとはしなかったのだ。
「これでは国中の人々から嫌われて当然よね……」
回帰前の自分を恥じて、思わずポツリと呟いた。
「クラウディア様? どうかされましたか?」
リーシャが尋ねて来る。
「いえ、何でも無いの。ところで……」
私はハインリヒとユダを見た。
「何でしょうか?クラウディア様」
ユダが首を傾げる。
「私をその貧民街に連れて行って貰えるかしら?」
三人がこの言葉に目を丸くしたのは言うまでも無かった――




