第2章 149 外出準備
執務室から出てくると、リーシャが駆け寄ってきた。
「クラウディア様。外出許可は貰えましたか?」
「ええ、貰えたわ。その代わり絶対に護衛をつけるようにと言われたわ」
そして私はユダとハインリヒの顔を交互に見た。
「城下町へ行くのについてきてもらえるかしら?」
「「はい、勿論です」」
二人は同時に頷いた。
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「外出のお許しを頂けて良かったですね」
自室に向かいながら歩いているとリーシャが嬉しそうに声を掛けてきた。
「ええ、そうね。でも最初はアルベルト様まで一緒に出かけようとしたので驚いたわ」
「え?そうなのですか!?やっぱりクラウディア様は大切に思われているのですね?きっと心配でならないのですよ」
「そうかしら……?」
アルベルトは随分苛々した様子だった。私を喜んで城下町へ行かせたいようにはとても思えなかった。
「町へ行くのにはどんな装いで出かけられますか?」
リーシャは町に出かけられるのがよほど楽しみなのだろう。目をキラキラさせている。
「そのことなのだけど……。いくら『エデル』の人々に顔を知られていないとは言え万一のことも有るので、平民の姿で行こうと思っているわ」
「え?でもクラウディア様はそのようなお召し物は……持っていられないのでは?」
確かに今、私のクローゼットにはアルベルトが用意してくれた貴婦人向けの服しか入ってはいない。
「大丈夫よ。この国に来たときに着ていた服があるから」
「ええっ!?あ、あの服をお召になるのですか……?」
「勿論よ。あの服は動きやすくて気に入ってるのよ」
そして私は後ろを歩くユダとハインリヒに声を掛けた。
「私は身分を隠して町へ行くつもりなので、二人も騎士とは分からないような普段着でついてきてくれる?」
「はい、分かりました」
「勿論です」
ハインリヒとユダは交互に返事をした――
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午前10時――
「フフ……やっぱり、この服は動きやすくていいわね」
麻地のワンピースにエプロンを付けた服に着替えた私は鏡の前で微笑んだ。長い髪の毛は邪魔にならないように後ろで一つにまとめている。
「クラウディア様は王女様なのに、そのような身なりをされるなんて。しかもエプロンまでされて……」
ブラウスに紺色のスカート姿のリーシャがため息をついて私を見ている。
「いいのよ、目立たない格好がいちばんいいのだから」
それに、このエプロンのポケットには万一のことを考えてエリクサーと万能薬を入れてある。貧しい身なりで歩いていれば、揉め事に巻き込まれる可能性も少ないはず。
メッセンジャーバッグを肩から下げ、マントを羽織ったところで部屋の扉がノックされた。
『クラウディア様。宜しいでしょうか』
「あ!ハインリヒさんですね。はい、今開けます」
リーシャが扉を開けると、茶色のフード付マント姿のハインリヒとユダが立っていた。
「クラウディア様!本当にそのお姿で町に行かれるのですか?まるで平民以下の服装ではありませんか!」
「ええ、そうよ?何か変かしら?」
「い、いえ。変というほどのことではありませんが……」
ハインリヒは私の服装があまりにもみすぼらしく見えたのか、驚きで目を見張る。一方のユダは真逆の反応だった。
「その服は……初めて俺とクラウディア様が出会ったときに着ていられたのと同じものですね?あの旅を思い出します……流石はクラウディア様。どのような服でも良くお似合いですよ」
「そう?ありがとう」
どのような服でも良く似合うと言われたことに、複雑な感情を持ちながら頷いた。
「では、早速行きませんか?」
「ええ、そうね。行きましょう」
一番浮かれた様子のリーシャに返事をすると、私達は四人で町へと向かった――




