第2章 147 牽制する二人
「二人共……どうしたの?扉の前に立っていたなんて。何か私に用があったのかしら?」
するとユダが進み出てきた。
「俺はクラウディア様の専属護衛騎士ですからね。必要な時、いつでも護衛出来るように部屋の前で待機しているのは当然のことです」
そこへ今度はハインリヒがユダの前に割って入ってきた。
「クラウディア様。お忘れないようにお願い致します。この私が初めに専属護衛騎士になったということを。それに騎士としてどちらが陛下からの信頼が厚いのかということも」
その物言いはまるでユダを牽制してるようにも思える。
「確かに陛下からの信頼は彼のほうが厚いかもしれませんが、クラウディア様からの信頼が厚いのは当然この俺ですよね?何しろ、我々は共に旅を続けてきた同士なのですから。そうですよね?」
「ユダ。お前……仮にもクラウディア様に対して同士などと……もう少し自分の立場をわきまえたらどうだ?」
ハインリヒがユダを睨んだ。
「その言葉、そっくりお返ししますよ。貴方がクラウディア様の専属護衛騎士になったのは、陛下に忠誠を誓っているからでしょう?知っているんですよ?陛下に対する信頼を裏切るような真似をしないか見張る為にクラウディア様の専属護衛騎士になったことを」
「何だと……?俺達は陛下の直属の騎士団だ。陛下に忠誠を誓うのは当然だろう?」
「言っておきますが俺が忠誠を誓う相手はクラウディア様だ。貴方とは違い、純粋な気持ちでお守りしているのです」
「何……?騎士になりたて風情がこの私にそのような口を叩いていいのか?」
「確かに騎士になりたてかもしれませんが、腕には自信がありますよ」
何やら二人の間に険悪なムードが流れ始めた。
「あ、あの……二人共、ちょっといいかしら?」
「「はい、クラウディア様」」
声を掛けると、二人は同時に返事をした。
「これから、陛下にお話したいことがあって執務室に行こうと思っているのだけど……」
「「俺(私)が付き添いますよ」」
二人は再び声を揃えて返事をした――
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「何故、お前まで一緒についてくる?騎士になりたてなのだから訓練所に行ったほうがいいんじゃないか?」
ハインリヒの不機嫌そうな声が背後で聞こえている。
「俺は戦場で実践を積んでいますからね。これでも成り上がり者なので腕には自信がありますよ」
「なるほど、すごい自信だな。なら今度私と勝負してみるか?勿論真剣勝負のだ」
「ええ。いいですよ。俺ならいつでも受けて立ちますから」
ますます二人の雰囲気が険悪なものになってくる。
「クラウディア様……何だかあのお二人……険悪な仲に見えませんか?」
隣を歩くリーシャが不安げに小声で尋ねてきた。
「ええ、そうよね。困ったわ……二人共、私の護衛騎士なら仲良くして欲しいのだけど……」
二人は相変わらず互いを牽制するかの如く会話を続けている。アルベルトの執務室に向かうだけで、この有様なら町へ行くとなるとどうなってしまうのだろう?
私は憂鬱な気持ちで心のなかでため息をついた――。




