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第2章 138 疑いの目を向ける宰相

「へ、陛下……まさかこちらにいらっしゃるとは思いもしませんでした」


 宰相は明らかに狼狽えた様子でアルベルトを見た。


「それで?その女はどれ位の果実を取って来たのだ?」


 アルベルトは祭壇の前に立つカチュアに声を掛けた。カチュアは自分が名前を呼ばれなかったのが気に入らなかったのか一瞬眉をひそめたが、すぐに頭を下げてきた


「はい、陛下。私は12個見つけて参りました」


「ふ〜ん。そうか」


 アルベルトは祭壇の上に置かれた果実を見て、さほど興味なさげに頷くと次に私に声を掛けてきた。


「クラウディア。お前はどれくらい見つけてきたのだ?」


 カチュアと宰相は私が果実を取ってこれていないだろうと思っているのにアルベルトは私を信じているのだ。


「はい、数が多いので数えてみなければ分かりません。今から確認したいと思います」


「何だと?!」

「え?!」


 宰相とカチュアが驚きの声を上げる。他の神官たちも私の言葉にざわついている。


「そうか?では私も一緒に確認するとしよう」


 アルベルトは騎士たちを引き連れて、私とハインリヒの前へとやってきた。


「アルベルト様……」


 眼前でピタリと足を止めたアルベルトは一瞬身をかがめて私の耳元に囁いてきた。


「良かった、無事で」

「え?」


 次の瞬間アルベルトは身を起こすと、ハインリヒに視線を移す。


「ハインリヒ、聖木から採取してきた果実を見せろ」


「はい、陛下」


 ハインリヒは馬の背にくくりつけた麻袋を解くと地面に置き、口紐をほどいて袋の中身を開いた。


すると、途端に眩い光が外に溢れ出す。



「おおっ!」

「な、何という眩しい輝き……!」

「物凄い量だ!」


 その様子を近くで見届けていた神官たちが感嘆の声を上げる。

 私は素早く宰相とカチュアの様子を見た。すると宰相は怒りの為か眉を釣り上げ、カチュアの方は顔色が青ざめている。


「それでは早速数を確認してみよう」


 何故か嬉しそうな様子で私に声を掛けてくるアルベルト。


「はい。分かりました」


「私が祭壇まで運びます」


 ハインリヒは麻袋を担ぎ上げると祭壇へと運んでいく。ぎっしりつまった麻袋を持って近づいてくる私達を宰相は悔しげに歯を食いしばりながら見つめている。


 細長い祭壇の中央にはカチュアが採取してきたと訴える果実が積まれている。ハインリヒはその果実をチラリと見ると、端の方に麻袋を置いた。


「では、早速数えてみよう。他の者達も確認の為に集まってもらおうか」

 

 いつの間にか、その場を仕切っているのはアルベルトであった。神官たちも本来は宰相側の人間であるはず。けれど私が黄金の果実を大量に持ち帰ってきたことで、少し変化が起きたのかもしれない。

 誰もがアルベルトの言葉に従っている。


「それでは一つずつ、取り出して数えてみよう」


 アルベルトは麻袋の中に手を入れ、黄金の果実を一つ一つ置いていった。




**


「そ、そんな……馬鹿な……!」


 全ての果実を数え終えた今、宰相は身体を震わせていた。カチュアに至っては顔が青ざめ、言葉を失っている。


 一方喜んでいるのはアルベルトだった。


「凄いではないか、クラウディア。黄金の果実を52個も採取してくるとは!よくやった」


「ありがとうございます」


 頭を下げたものの、私の胸中は複雑だった。出来れば宰相やカチュアの前で、あからさまな態度を取ってもらいたくはなかった。これではますます宰相から目の敵にされてしまうというのに。


 すると、案の定宰相が声を荒らげてきた。


「ほ、本当にその黄金の果実が本物と言えるのですか!予め何らかの方法でそのへんに実る果実を金色に染めただけなのではありませんかな?!」


「ほう……宰相、そなたはクラウディアを疑うというのか?」


 アルベルトは宰相を睨みつけた――。


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