第2章 137 焦る宰相
「おお、これは随分時間がかかったようですな?クラウディア様」
私達を出迎えた宰相は何故か笑顔だった。ひょっとすると彼は私達が聖木を見つけることが出来ずに戻ってきたと思っているのだろうか?
「それで?クラウディア様は黄金の果実を見つけられたのですか?私は見つけられましたよ。こちらです。御覧下さい」
カチュアが指し示した場所には祭壇が置かれ、その上には黄金に輝く果実が乗せられている。少なくとも10個以上はありそうだ。
「クラウディア様……あの果実は一体……?」
訝しげに背後にいるハインリヒが声を掛けてきた。
「ええ、多分……あの果実は偽物じゃないかしら?」
恐らく私が出発前に黄金の果実を10個でも20個でも取ってくると言ったので、急遽宰相たちが用意した偽の果実かもしれない。
「フフ……驚いて声も出せないみたいですわね?」
「当然であろう。大見得を切っておきながら、恐らく果実を取ってこれなかったのであろうから」
カチュアと宰相が笑みを浮かべて話し合っている。
なるほど、やはりそういうことか。恐らく宰相は私達がここへ戻って来れたのは黄金の果実を手に入れられなかったからだと思い込んでいるのだ。
多分私とハインリヒを襲った騎士たちは、黄金の果実を手に入れたときにだけ、襲うように命じられていたのだろう。
「いいえ、見つけられましたよ」
馬の背にまたがったまま、私は宰相の目を見た。
「な、何っ?!そ、そんな馬鹿な!見え透いた嘘をつくのはどうかと思いますぞ?そ、それに人と話す時は……ま、まず馬から降りられるべきではありませんか?!」
「何を……っ!」
宰相の言葉にハインリヒが殺気立ったが、私は返事をした。
「それもそうですね。失礼致しました。今馬から降りますので」
そして背後にいるハインリヒに声を掛けた。
「ハインリヒ、馬から降ろしてもらえる?」
「分かりました……」
ハインリヒは馬から降りると、次に私を降ろししてくれた。
「どうも失礼致しました。リシュリー宰相」
「いや、分かれば宜しいのですよ。ではクラウディア様。先ほど黄金の果実を見つけられたと話されておりましたが……見せて頂いても宜しいですかな?」
「……」
宰相のこの提案を受け入れていいかどうか、正直私は迷っていた。
何しろ、5人の刺客を差し向けていたくらいである。ここで黄金の果実が本物だと言うことが宰相に分かってしまえば、どのような手段を取って奪いに来るか分かったものでは無い。
「おや?どうされたのです?クラウディア様。やはりその様子では黄金の果実は本当は取ってきていないのでは?」
「クラウディア様……」
ハインリヒが心配そうに声を掛けて来たその時――。
「2人とも、黄金の果実を取って来たようだな?一緒に立ち会わせてもらおうか?」
声の聞こえた方を振り返ると、騎士達を引き連れたアルベルトが現れた――。




