第2章 136 今回の陰謀について
結局あの後私はユダからの誘いは断り、ハインリヒと同じ馬に乗って神殿に戻ることになった。
そして亡くなった騎士達のことはユダ達に任せることにした。
ハインリヒの馬に乗った時、何故か恨めしそうな目で私を見つめていたユダが少し気になったけれどもこればかりはどうしようもない。
「それにしてもクラウディア様は賢明な判断をされましたね」
2人で馬に乗って森の中を進んでいると、背後で手綱を握るハインリヒが声を掛けてきた。
「え?何のこと?」
「いえ、ユダではなく私の馬に乗って神殿に戻ることを決められたことですよ」
「それは当然よ。何しろ宰相達の前で貴方と一緒に森へ向かったのだから。帰りは違う相手だったら、それこそ宰相に揚げ足を取られてしまうわ」
「そうですね。それにしても宰相は何と汚い手を使う人物なのだ。まさか刺客を放っていたなんて。しかもよりにもよってクラウディア様の暗殺を企てるなど……!」
ハインリヒの悔し気な様子がこちらにも伝わってくる。
「でも、本当に私を暗殺しようとしたのかしら?」
「クラウディア様?何を言っておられるのです。現に剣を振り下ろされそうになったのですよね?」
「ええ、そうなのだけど。あの宰相が私を暗殺しようとするかしら?仮にも私は陛下の妻になる為に嫁いできたのよ?候補者でもなくこれは決定事項なのに。私が殺されれば真っ先に疑われるのは宰相じゃない?大体最後まで私が結婚相手ということに対して反対していたのでしょう?」
「ええ。そうですが……」
「宰相の命令がうまく伝わっていなかったのかもしれないわ」
「え……?」
ハインリヒの息を呑む気配を感じた。
「宰相は私が黄金の果実を持ってこれるはず無いとは思っていたけれど、念の為に彼らを使って監視させていたのじゃないかしら。万一にでも黄金の果実を手に入れたなら奪ってくるようにと指示していたのかもしれないわ。けれど、命令がうまく伝わっていなかった……」
「それでは奴らが独断でクラウディア様の命を狙ったと言う事ですか?」
「ええ。だからハインリヒ。貴方に自分達の方に寝返らないかと提案してきたのではなくて?大体私は城の大半の人々から嫌われているみたいだしね」
私は振り向いてハインリヒを見上げた。
「クラウディア様……」
ハインリヒが何か言いたげな微妙な表情で私を見る。
「でも……安心したわ」
ハインリヒに笑みを浮かべた。
「安心?何がですか?」
「ハインリヒが彼らに寝返らなかったことよ。もし、あの場で貴方に裏切られたら私は多分死んでいたわ」
「私が彼らに寝返るはずは無いでしょう?何しろ私は……」
「アルベルト様の忠実な家臣だからでしょう?」
「ええ、それもありますが……」
ハインリヒがそこまで言いかけた時、森が開けて神殿が見えて来た。
「ハインリヒ、神殿が見えて来たわ!」
「ええ。そうですね。それに……既にあの女は戻っているようですよ」
神殿の前には宰相達と一緒にいるカチュアと騎士の姿があった――。




