第1章 24 傷病者の町『クリーク』 1
小1時間程休憩を取ると、再び馬車は『エデル』へ向けて走り出した。
スヴェンのお陰で喉の渇きもお腹も満たされた私達は馬車の窓から外を眺めていた。
馬車は森を抜け、再び荒れ地を走り続けていた。
日は少しずつ傾きかけ、いつしか空は青とオレンジのコントラストの色に染められていた。
「きれいな夕焼けですね…」
リーシャは水平線が広がる大地の空に映える見事な夕焼けに、すっかり目を奪われていた。
「ええ、そうね」
私は返事をしたが、これから訪れることになる町のことを考えると心が休まらなかった。
「今夜は何処に泊まるのでしょうね」
リーシャがポツリと呟いたので、これをきっかけに次の町のことについて説明することにした。
「多分、次の滞在先は『クリーク』という町になるはずよ」
「まぁ、町ですか?でしたら大きな町なのでしょうね。それならきっと宿屋もありますよね?入浴も出来るでしょうか?私、身体の汚れを落としたくて」
リーシャには悪いが、恐らくそれは無理だろう。でも期待している所にわざわざ水を差すこともないだろう。
「そうね、入浴…出来るといいわね」
「やっぱりそうですよね?『アムル』の村ではお湯で濡らしたタオルで身体を拭くことしか出来ませんでしたから。あ〜今から楽しみです…」
リーシャは余程お湯が恋しいのだろう。
「フフフ…リーシャったら」
無邪気なリーシャを見ていると、ふと娘の葵のことが思い出された。
…私が死んだ後、家族は皆どうしたのだろう…。
「それにしてもクラウディア様は次に立ち寄る場所をご存知なのですか?」
センチメンタルな気分になりかけた時、リーシャが話題を変えてきた。
「ええ、それはね…『クリーク』と言う町も『レノスト』国の領地だったからよ」
まさか、回帰前に立ち寄った場所だからとは言えるはずもなかった。
「そうだったのですね。私って、まだまだ勉強不足すね」
「いいのよ、もう。これからは『エデル』国について学べば良いのだから」
「ええ、そうですね」
リーシャは元気よく頷いた。
「それでね、リーシャ。次の『クリーク』と言う町なのだけど…実は大きな野戦病院があるの。その町ではいまも戦争で怪我や病気になった人達が…数多くいるのよ…」
「え…?そ、そうなのですか?」
リーシャの顔が曇る。
「ええ。だから…きっと、その町でも戦争を起こした王族として私は責められるはずよ。だから、私がその場を鎮めるまでは…リーシャ。貴女はこの馬車から降りないほうがいいわ」
回帰前、『クリーク』の町に降り立った私達は人々から散々責め立てられた。
戦争を起こして自分たちを巻き込み…敗戦した上に、怪我や病気になった領民たちを放置していたことに激怒し…取り囲まれてしまったのだ。
その時になってようやく『エデル』の使者たちが町の人達を説得し、私とリーシャは命拾いをしたのだ。
あの時、リーシャは恐怖で震える私を…自分だって怖かったはずなのに前に立って守ろうとしてくれた。
大丈夫、今度もうまく立ち回って見せる。
その為に準備をしてきたのだから。
リーシャ。今度は私が貴女を守ってあげるから―。