第2章 132 聖地での戦い ③
「クラウディア様ーっ!!どちらにいらっしゃるのですかーっ?!」
その時、森の奥からハインリヒの声が聞こえてきた。
「あ!あの声は……ハインリヒだわ!探しに来てくれたのね?」
途端にユダの表情が不機嫌になる。
「ハインリヒ……?ああ、確か彼はクラウディア様の専属護衛騎士になっておられる方ですよね?しかもクラウディア様を自分の馬に乗せて、ここまで連れて来られたのでしょう?」
「どうしたの?ユダ」
するとユダが私を見た。
「クラウディア様、俺が……」
「あ!クラウディ様!」
突然木々が揺れ、茂みの間からハインリヒが姿を見せた。
「ハインリヒ!」
名前を呼ぶと彼は駆け寄ってきた。
「良かった……!無事だったのですね?」
「ええ、貴方も無事で良かったわ」
ハインリヒに向けて笑みを浮かべた。何しろ彼は自分の命も顧みず、私を逃がそうとしてくれた恩人なのだから。
「はい。突然兵士たちが加勢に現れたので……。ところでユダ。何故お前がここにいるんだ?」
ハインリヒはユダを睨みつけた。そう言えば2人は同じ騎士団に所属しているので知り合い同士だった。
「俺は陛下から直々にクラウディア様を陰から守るように言われていたので後をつけていただけですが?」
「ほ〜う……成程、陛下から直々に……」
ハインリヒの眉がピクリと上がる。
「ええ、そうです。それにクラウディア様を救ったのもこの俺です」
ユダは自分を指さした。
「そうか。それはご苦労だったな。ではクラウディア様、地面に転がっている騎士達はユダに任せて、我々は先程の聖木の元へ戻りましょう。黄金の果実を持ち帰らなければなりませんからね」
そして右手を差し出してきた。
「ええ、そうね」
ハインリヒの方へ歩き出そうとした時……。
「クラウディア様。俺が案内致しますよ。失礼致します」
ユダが突然私の左手を取った。
「おい!何を勝手にクラウディア様のお手に触れる?!」
「そういう貴方こそ、自分の右手を差し出してきましたよね?」
ハインリヒに対し、何故か反抗的な態度を取るユダ。
「何……?まだ見習いの騎士のくせに……!」
「生憎、今日付で俺は正式な騎士になったのですよ」
2人が激しく睨み合う。一体彼らはどうしてしまったのだろう?
「ねぇ、どうしたの?2人とも。そんなことよりも早く聖木へ戻らないと」
「「そうですね」」
私の言葉に同時に頷くハインリヒとユダ。
「それならお前にその2人の騎士を任せよう」
ハインリヒがユダに命じたその時――。
「ウッ!」
「グアアア!!」
突然地面に倒れ込んでいた2人の騎士が激しく苦しみだし……次の瞬間口から大量の血を吐き出し、白目を剥いた。
「キャアッ!!」
あまりにも突然のことに叫んでしまった。
「な、何だ?!」
驚くユダに対し、ハインリヒは何故か真っ青になっている。
2人の騎士はビクビクと激しく痙攣していたが……やがて完全に動かなくなってしまった。
「い、一体……な、何が起こったの……?」
私は身体の震えが止まらず、両腕で自分の身体を抱きしめた。
「確認……致します……」
ユダは地面に倒れたままピクリとも動かない騎士の側にしゃがんだ。そして首に手を当てた時、ハインリヒが青ざめた顔のまま口を開いた。
「確認するまでもない……2人はもう死んでいる」
「「!!」」
その言葉に私とユダは息を呑んだ――。




