第2章 131 聖地での戦い ②
斬られるっ!!
私は自分の死を覚悟して目を閉じた。
「クラウディア様ー!!」
ユダが私の名を叫んだその時――。
「ぐわああああああっ!!」
男の叫ぶ声が聞こえ、私は恐る恐る目を開けた。すると右腕に弓矢が深々と刺さり、痛みで転げ回る騎士の姿がそこにあった。
え?誰が弓矢を……?
その時、見知らぬ青年が弓矢を構えて木の陰からこちらを見つめている姿が目に写った。
まさか彼が弓矢を射ったのだろうか?何処かで見覚えがあるような気もするが、彼は私と目が合うと、走り去っていってしまった。
一体今のは……?
「クラウディア様!!ご無事でしたか!」
ユダが私に駆け寄ってきた。
「え、ええ。大丈夫……あ!ユダッ!さっきの騎士はどうなったの?!」
「はい、あの騎士なら気絶させておきました。それにしても何故この男は弓矢が刺さったまま眠りについているのでしょう?」
ユダが足元に倒れている騎士を見下ろした。
「それが突然弓矢が飛んできて、この騎士の腕に刺さったのよ。でも……もしかすると弓矢に睡眠薬でも塗られていたのかしら?」
「そうですか……それで眠りに……」
その時私はユダの異変に気付いた。彼の身体が小刻みに震えていたからである。
「ど、どうしたの?ユダ。あ!もしかして……何処か怪我でもしたの?!」
するとユダが首を振る。
「い、いいえ……そ、そうではありません。ただ……この男がクラウディア様に……剣を振り下ろしそうになった瞬間……恐ろしくなって……」
ユダは右腕を押さえつけて必死で身体の震えを止めようとしていた。
「落ち着いて、ユダ。私なら大丈夫よ。ほら、どこも怪我をしていないでしょう?」
私は両腕を広げて自分が無傷であることをアピールした。
「クラウディア様……!」
次の瞬間、ユダの腕が伸びてきて気付けば私は強く抱きしめられていた。
「ユ、ユダッ?!」
あまりの突然のユダの行動に驚く私。するとユダが口を開いた。
「どうか……ご無礼をお許し下さい……。ただ……出来ることなら、少しだけで構いませんので……このままでいさせて下さい……」
私を抱きしめるユダの身体が震えていたので、拒むことは出来なかった。
「分かったわ……」
うなずくと、私を抱きしめるユダの腕に力が込められ……彼は震えながら語りかけてきた。
「良かった……クラウディア様がご無事で……。剣を振り下ろされそうになった時には心臓が止まるかと思いました……」
「大丈夫よ、私は無事。その時、見知らぬ若者が弓矢を放ってくれたのよ」
すると、ユダは私の身体を離すと尋ねてきた。
「え?それではあの弓矢は……」
「ええ、その人が私を助けてくれたのよ。一体誰だったのかしら……あ!こんなことをしている場合では無いわ!ハインリヒがっ!」
「彼なら大丈夫です。俺の仲間達が加勢しましたから」
「え?もしかして仲間というのは……?」
「ええ。クラウディア様と旅をしてきたメンバーですよ。昨日、陛下に直々に頼まれていたのです。クラウディア様を陰から見守っていて欲しいと」
「アルベルト様が……?」
「はい、そうです。だから俺が声を掛けて仲間を集めました」
そしてユダは笑って私を見つめた――。




