第2章 130 聖地での戦い ①
「クラウディア様、よく聞いてください」
ハインリヒが私に背を向けたまま声を掛けてくる。
「な、何?」
「私が奴らに向かって行ったら、貴女は逃げて下さい。何とか足止めします」
「そんなこと出来るはずが……!」
言い終わる前にハインリヒは剣を構えると、大声で吠えながら騎士達に突進していく。
「うおおおおおおー!!」
「馬鹿な!真正面から突っ込んでくるとはな!」
「よほど死にたいと見える!」
「いい度胸だ!!」
「リシュリー様に逆らった事、後悔させてやる!」
「クラウディア様!走って下さい!」
ハインリヒは私を見ることも無く叫ぶ。
「逃がすかっ!」
すると、1人の騎士が私にターゲットを移した。
「!」
恐怖に駆られながらも私は背中を向けると駆け出した。油断させたすきに……服従薬をあの騎士にかけられれば……!
ハインリヒ、どうか死なないで!!
彼の無事を祈りながら森の中を走る私。
「逃げられると思うな!」
必死で走るも、逃げ切れるはずがなかった。騎士の手が私に届きそうになった次の瞬間――。
「クラウディア様ー!!」
何者かが背後から私の名を叫んだ。あの声は……!!
次の瞬間、騎士の狼狽えた声が聞こえると同時に金属音が鳴り響いた。
ガキィイイイイインッ!!
「な、何だ!!貴様っ!!」
「クラウディア様に指1本でも触れさせるか!!」
思わず振り返ると、剣を構えていたのは何とユダだった。彼は騎士の姿をしている。
「ユダ!!」
「クラウディア様!!ご無事でしたか?!」
ユダは私の方をチラリと見た。
「よそ見してる場合か!!」
騎士はユダに剣を振り下ろすも、やすやすと避けられ空しく空を切る。
「な、何ぃっ?!」
驚愕する騎士にユダは不敵な笑みを浮かべた。
「俺達兵士上がりの騎士はなぁ、貴様らよりもずっと実戦を経験しているのだ!!」
そして、ユダは剣を薙ぎ払うと、騎士の手から剣が飛ばされる。
「ば、馬鹿な!!」
騎士の視線がユダから離れ、飛ばされた剣の方角を見た瞬間――。
ドカッ!!
ユダは騎士の腹を蹴り上げる。
「ゴフッ!!」
激しく咳き込んだ騎士は地面に倒れこんだ。その騎士の身体をユダはおもいきり踏みつけた。
「どうだ?成り上がりの騎士に倒される気分は?」
そしてユダは騎士に剣を突き付けた。まさかユダは騎士を殺すつもりじゃ……?
「待って!!ユダッ!その騎士を殺すつもりなの?!」
「クラウディア様が望まないなら殺しはしませんが……」
騎士を足で踏みつけながらユダが私を見た。
「ええ、殺しては駄目よ」
すると、踏みつけられていた騎士がにやりと笑った。
「やはり、甘いな……だからお前の国は負けたのだろう?」
「え?」
その時、ユダが真っ青な顔で叫んだ。
「クラウディア様!!後ろにっ!!」
その声に振り返ると、私は目を見張った。
そこにはいつの間に現れたのか、騎士が私に剣を振り下ろそうとしていた――。




