第2章 128 蘇る聖木
「本当に泉があったのですね……」
泉を目にして、ハインリヒは驚いた様子で目を見開いた。
「ええ。それじゃ降りましょう」
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
馬から降りるのを手伝って貰うとハインリヒに声を掛けた。
「この近くにあるはずよ。早速探してみましょう。1本だけ枯れている巨木があれば、それが聖木に違いないわ」
「分かりました。お手伝い致します」
そして私達は付近の木々を探し……すぐに枯れた巨木は見つかった。
「成程……これが聖木なのですね」
「ええ、そうよ」
私とハインリヒは枯れ果てた巨木を見上げていた。
やはり、回帰前と同じ光景だった。他の木々は瑞々しい緑の葉を茂らせているのに、この巨木だけは枯れ果て、太い幹も樹皮がボロボロに剥けている。
「これでは黄金の果実が実るはずありませんね……いや。それ以前にこの巨木が誰も聖木だとは気づきもしないでしょう。ですが……」
ハインリヒはそこで言葉を切り、私を見下ろした。
「何かしら?」
「いえ、本当にこの巨木は聖木なのでしょうか?」
「フフ……だったら試して見ればいいだけよ」
メッセンジャーバッグから昨夜作った【ヒール】の入った小瓶を取り出すと、栓を抜いた。
「クラウディア様、それは何ですか?」
「枯れた植物を活性化させる液体よ。私が調合したの」
もちろん、この液体が錬金術によって作り出されたというのは秘密だ。
そして私は巨木の周囲に液体を降り注いだ。
「確かに枯れた植物に水を注げば、瑞々しさを取り戻すことが出来るでしょう。それにしても水分量が少なすぎではありませんか?水を与えるならこの泉の水を……」
「しっ、待ってちょうだい」
尚も話を続けようとするハインリヒを静かにさせると、私は巨木に注目した。
すると、地面に【ヒール】を降り注いだ周辺が金色に光り輝き出した。
「え……?こ、これは……?」
ハインリヒが突然光り輝き出した巨木に目を見張る。
そして次の瞬間――。
巨木から眩いばかりの閃光を放ち、光の柱が天に向けて登っていく。
「な、何だっ?!一体これは!」
錬金術の奇跡を知らないハインリヒは驚きの声を上げる。
光に包まれた巨木はみるみるうちにその姿を変えていく。
木々の枝はぐんぐん伸びていき、そこから緑がざわざわと生えていく。
そして……。
「あ!あれは……!」
黄金に輝く果実があちこちに実をつけ始めたのだ。その数は10個や20個どころではない。はじめは小さな果実だったが、やがてそれはりんごの大きさほどにまで成長していく。
「す、すごい……。50個位以上はあるかもしれない……」
薄暗い森の中に、黄金の果実を実らせた巨木はまさに聖木の姿そのものだった。
「クラウディア様……一体貴女という人は……」
ハインリヒが感嘆のため息と共に私を見た。
「どう?黄金の果実が実ったでしょう?」
「ええ、仰っていた通りです。もしや……『聖なる巫女』は本当はクラウディア様なのではありませんか?」
「私が?まさか、そんなはずないでしょう」
そう、私は聖女などではなく錬金術師なのだから。
「それじゃ、早速黄金の果実を……」
その時――。
「へぇ〜……念の為にリシュリー様に命じられて後をつけてきたが……」
「まさか本当に『聖木』を見つけ出すとはな」
周囲から声が聞こえてきた。
「何者だっ!」
ハインリヒが私を庇うように前に立ち、剣を抜いた。
すると……。
木々の間から4人の騎士が姿を現した――。




