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第2章 127 聖木を目指して

「大丈夫なのですか?クラウディア様」


 馬に乗りながらハインリヒが尋ねてきた。


「え?何が大丈夫なの?」


「いえ、出発前に黄金の果実を10個でも20個でも取ってきましょうと宰相に仰っていたことです」


「あぁ、あのことね。大丈夫よ、任せておいて」


「随分自信がおありなのですね?何故ですか?」


 「ええ、聖木と言えども所詮は植物なのよ。根腐れしている原因を取り除けば果実は実るわ」


「ですが根腐れしている原因を取り除いたとしても、すぐに果実が実るわけではありませんよね?」


 背後にいるハインリヒの顔を見ることは出来ないが、明らかにその声には私を疑っている様子が感じられた。


「問題ないわ。私は植物の成長を促す秘薬があるから」


「秘薬ですか……?」


「ええ、それに聖木の場所も知っているわ。この森の東の方角には泉があるの。まずは東を目指してくれる。東は向こうよ」


 私は予め用意しておいた方位磁石を見ながら、ハインリヒに方角を示した。


「分かりました。では急ぎましょう。落ちないようにしっかり掴まっていてください」


「ええ」


  頷くと、ハインリヒは馬を駆けさせた。




 少しの間、東を目指す私とハインリヒの間に沈黙が降りた。


 このまま黙って泉を目指すのも気まずかったので、ハインリヒに尋ねてみることにした。


「ハインリヒ、カチュアさんを馬に乗せていた騎士のことは知っている?」


「ええ、知っていますよ。何故なら彼と私は同じ年に騎士として入団しましたから」


「そうだったのね?それでは2人は同期なのね」


「はい、そうなりますね。彼は……私の良きライバルだったはずなのに……」


 何故かハインリヒの口調が変わる。


「どうかしたの?」


振り向いて、ハインリヒの顔を見上げると彼は悔しそうな表情を浮かべていた。


「ハインリヒ?」


「彼は……いつの間にか野心家になっていました。よりにもよって……宰相側につくなど……」


 ハインリヒは歯を食いしばっている。


「安心して頂戴、ハインリヒ」


「え……?」


「この勝負は私が勝つから、宰相達に一泡吹かせることが出来るわよ」


「ですが、本当に黄金の果実を大量に持ち帰ることが出来るのですか?」


「ええ。もちろんよ。このメッセンジャーバッグの中には大きな麻袋が2つ入っているから、採取した果実を持ち帰れるわよ」


「クラウディア様……」


 少しの間、ぽかんとした顔をしていたハインリヒであったが……。


「クックックッ……あ、貴女と言う方は……面白い方ですね」


「そうかしら?」


「ええ。とても……」


「王女には見えないということでしょう?」


「ええ、そうですね。王女ともあろうお方が平気で平民の着る服をお召になっておられますから。てっきりもっと貴女は気位の高いお方だとばかり思っておりました」


「つまり、あまり良い噂は聞いていなかったと言うことでしょう?」


「はい……噂ばかりを信じて、私は初めからクラウディア様を色眼鏡で見ていたかもしれませんね。ですが、じっさいのクラウディア様は噂とは全くかけ離れた方でした」


 「それは何よりだわ」


 その後も、私とハインリヒは泉を目指しながら他愛もない話をした。お陰で少しは彼と信頼関係を築けたかもしれない。



 やがて……。


「見えてきたわ!泉よ!」


 ついに私達の前に目的地の泉が現れた。


「あの、泉の側に聖木があるのですね?」


 背後にいるハインリヒの声も何処か興奮気味に聞こえる。


「ええ。そうよ」


 私もハインリヒも目的地が見つかったことですっかり油断していた。



 だから気付けなかったのかもしれない。


 宰相の罠に――。







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