第2章 125 ハインリヒと宰相
『エデル』王国にある聖地は王城を通り抜けた先にあった。
聖地は緑に木々が生い茂り、美しい湖もある。湖のすぐ側には白い石造りの美しい大きな神殿が建っている。この神殿にはおよそ200人の神官が仕えており、彼らを管理しているのも宰相だった。
「リシュリー宰相……」
ハインリヒと神殿に行くと、既に宰相は大勢の神官を引き連れて湖の前に立っていた。
「来ましたな。クラウディア様、てっきり尻尾を巻いて勝負から逃げだすと思っておりましたが」
宰相は口角を上げてニヤリと笑った。
その言葉にムッときたのか、ハインリヒが反論した。
「そちらこそ意外ですね。棄権するかと思っておりましたよ」
「な、何だとっ!!」
宰相がその言葉に顔を真っ赤にさせて怒りに震える。彼の背後にいる神官たちもざわめき、明らかに不愉快な表情を浮かべている。
「ハインリヒ……」
一方、私の方も驚いていた。まさか私の為にハインリヒが言い返すとは思いもしていなかった。
「き、貴様……一介の騎士でありながら、宰相であるこの私に無礼な口を利きおって……!」
「貴方の方こそ勘違いしておられませんか?仮にもクラウディア様は陛下の后になられるお方ですよ?」
「ぐぬぬぬ……ま、全く……主もそうだが、それに仕える騎士まで何と非常識な……!」
私の為に言い返したハインリヒの為にも私は反論した。
「宰相。お分かりかもしれませんが、彼は私の専属護衛騎士ではありますが、実際に仕えているのは私ではなく陛下です。今の言葉は陛下に対して大変失礼なのではありませんか?」
「!」
私の言葉に宰相は肩をビクリとさせ……そして咳払いした。
「ゴホン!まぁ、今のは単なる言葉の綾ですが……その自信、いつまで続きますかな?おまけに……何です?そのみすぼらし……いや、質素な服装は。ここは聖地ですぞ?それなのにそんな身なりでこの地に入ってくるとは。一体何をお考えなのです?一瞬どなたか分かりませんでしたぞ?」
背後にいる神官たちは明らかに侮蔑した表情で私を見つめている。
「いけませんか?この広々とした森の中で聖木を探すのですよね?動きやすい服装が1番だとは思いませんか?それとも聖地では立派な身なりの者しか訪れてはならない場所なのですか?今の話では、まるで貧しい人々は聖地を訪れてはならないと、取られても仕方ないですよ?」
私はわざと肩をすくめた。
「そ、そのようなことを話してはおりません!全く……人の揚げ足を取るような真似をされるとは……流石は卑しい敗戦国の姫君ですな」
「な、何だと……?」
何故か、宰相の言葉に怒りを顕にするハインリヒ。
「落ち着いて、ハインリヒ。私は大丈夫だから」
小声でハインリヒに声を掛けた。
「ですが……」
「いいのよ」
尚も言葉を続けようとする彼を止めて、宰相に声を掛けた。
「ところで、肝心のカチュアさんはどうされたのですか?姿が見えないようですが」
すると……。
「私ならここにおりますよ。クラウディア様」
神官たちの背後からカチュアの声が聞こえると同時に、彼らはサッと道を開けた。
すると真っ白な法衣に身を包んだカチュアが騎士とともに白馬に乗って、私達の前に姿を現した――。




