第2章 123 明日の為に
アルベルトとの食事が終わり、部屋に迎えに来たハインリヒと部屋に戻ってきた。
「それではクラウディア様。明日9時に迎えに参ります」
「ええ、お願いね。後、今夜はもう誰も私の部屋には来ないようにマヌエラ達に伝えて置いて貰える?」
これから明日の準備をしなくてはならない。誰かに見られるわけにはいかないからだ。
「承知致しました。そうですね、明日の為にも今夜は早くお休みになられた方が良いでしょうから」
「ええ。それでは宜しくね」
「はい、失礼致します」
ハインリヒが扉を閉めると、私はすぐに内鍵を掛けた。更に窓の戸締りを確認し、
カーテンを閉じると、早速錬金術の準備を始めた。
回帰前の世界ではカチュアが水不足で苦しむ町で雨を降らした。その後、今度は
聖地で枯れ果てていた聖木から『黄金の果実』を取ってきた。この話が王都中に広がり、絶対的存在として彼女は『エデル』の聖女となった。
しかし、その直後から『黄金の果実』は意図的に作り上げたもので真っ赤な偽物という噂が流れていた。
もっともその噂は宰相の力によって揉み消され、噂を流した人物とされる者は処罰されてしまったのだが。
当時その噂を耳にした私は1人で聖地に向かい、何時間もかけて聖木を探し出した。探し当てた聖木はすっかり根腐れして枯れ果て、目も当てられない有様だった。このような状況で黄金の果実がなるはずは無い。
そこで城に戻った私はアルベルトにその話をしようとしたものの、会うことすら叶わなかった。挙句の果てに『聖なる巫女』を冒涜した悪女と呼ばれ、国母にふさわしくない女と周囲から蔑まされるようになったのだ。
時系列通りの流れで、今回カチュアが『黄金の果実』を取りに行くことは分かっていた。
だから私は宰相の挑発に乗った形で、今回カチュアとの勝負に挑むことにしたのだ。
「大丈夫、今回はカチュアが偽物の『黄金の果実』を手に入れ……私は本物の果実を手に入れるのよ」
テーブルの上に材料を並べて錬金術を開始した。
今回は然程難しい錬金術では無いので、すぐに終わるはず。
そして私はトランス状態に入った――。
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「……出来たわ」
テーブルの上には光り輝く液体の入ったボウルが置かれている。それを手の平サイズの小瓶に入れると、全部で5本出来上がった。
「これだけあれば、きっと間に合うはずね」
この液体は【エリクサー】と【聖水】をかけ合わせて作られている。
【聖水】は根腐れしている毒素を浄化させる効果があり、【エリクサー】は回復を促進させる。
これを聖木に振りかければ、木は蘇り黄金の果実が実る……はず。
「大丈夫、きっとうまくいくわ。そうね……この液体を【ヒール】と名付けましょう」
自分自身に言い聞かせ、次にカチュアの話を思い出した。
カチュアの挑発的な物言い……それに警戒心を顕にしていたハインリヒ。
明日はひょっとすると何かが起こるかもしれない。
「万一のことを考えて、絶対に割れないようにしなければいけないわね」
【ヒール】の入った小瓶を1本ずつ布でくるみながら、心に誓った。
絶対、明日はカチュアと宰相に負けたりしない。
私の味方をしてくれる人たちを守る為にも――。




