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第2章 115 月明かりに現れた人

「今夜は散歩に付き合ってくれてありがとう」


 私を部屋まで送り届けてくれたアルベルトが扉の前に立つ私を見て笑みを浮かべた。


「い、いえ。こちらこそ……お誘い頂き嬉しかったです」


 妙にアルベルトの視線が気恥ずかしく、視線を少しだけそらせながらお礼を述べた。

 すると、フッとアルベルトが笑う気配を感じた。


「アルベルト様……?」


 顔を上げると、彼は私をじっと見つめている。


「宰相との勝負……誰を供にするか決めたか?」


「え?いえ、まだですが……」


 ユダが駄目なら、誰にすればいいのだろう。こんな時、彼がいてくれたら……。


「スヴェン……」


 思わず、無意識に彼の名前を呟いていた。


「何だ?今、何か言ったか?」


「い、いえ。何でもありません。考えておきます」


「ああ、そうだな。明日中には決めておかないとな」


 アルベルトは笑みを浮かべ……身を屈めると、私の額にキスをしてきた。


「また明日会おう。おやすみ、クラウディア」


「は、はい……おやすみなさい」


 そしてアルベルトは私に背を向けると去っていった。




**



「ふぅ……」


 扉を閉めるとため息をついた。

 室内は既に明かりが灯されており、ベッドの用意も寝る前に飲んでいるお茶の用意もされていた。


「誰かが準備してくれたのね……」


 ポツリと呟くと窓に向かい、カーテンを開けて夜空を見上げた。


「本当に……アルベルトはどうしてしまったのかしら?」


 回帰したことで、変化があったのは自分だけだと思っていた。

 『エデル』に向かう途中まではリーシャは別人に身体を乗っ取られていたし、兵士達の態度も冷たいものだった。

 

 けれど私の行いが徐々に周囲に影響を及ぼし……領地の人々、そしてユダ達の信頼を得ることが出来た。


 私の変化がアルベルトの心にも変化をもたらしたのだろうか?何しろ、回帰前はこの国に到着した頃には既に私は『悪女』という呼び名が定着していたのだから。

 

 その為誰にも相手にしてもらえず、宰相も今ほどに積極的に絡んでくることも無かった。



『もし、万一……仮にお前が負けてしまったとしたら……いや、そんな事は考えたくも無いが、そのときは……お前をこの国から逃してやるからな?』


 アルベルトの言葉が耳に蘇ってくる。


「本気で言ってるのかしら?宰相とカチュアの勝負に負けたら私を逃がすなんて……。そんなことをすれば、いくら国王のアルベルトだって、タダではすまないはずなのに」


 そして私は思った。


 少しはアルベルトを信用してみよう……と。




****



 その夜のこと――。


 ベッドで眠っていると、風が吹いている気配を感じた。


「え……?風……?」


 窓を閉め忘れてしまったのだろうか?

 ベッドから起き上がると、バルコニーへ続く窓が開かれてレースのカーテンが揺れていることに気付いた。


 青白い月明かりが部屋の中を照らし……そこに月明かりを背にこちらを向いて立っている人物がいる。


 まさか、私の命を誰かが狙って……?


「だ、誰……?」


 恐怖を振り絞って声を掛けると、その人物はこちらへ近づいてきた。


「え……?」


「姫さん。久しぶりだな」


 現れた人物は……スヴェンだった――。

 

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