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第2章 114 アルベルトの意外な話

「どうだ?クラウディア。夜の庭園は綺麗だろう?」


 手入れの行き届いた美しい庭園を並んで歩きながら、アルベルトが声を掛けてきた。


「はい、そうですね」


 綺麗に刈り込まれた芝生に色彩鮮やかな花々が地面に置かれたランタンの明かりで浮かび上がっている。

 庭園の至るところには彫刻のオブジェが飾られており、一際大きなオブジェがあることに気付いた。


「どうした?何か気になるものでもあったか?」


「い、いえ。あの彫刻は何かと思いまして」


 あのような大きな彫刻……回帰前にあっただろうか?


「では見に行こうか?」


 アルベルトは私が返事をする前に、手を繋ぐとオブジェに向かった。



 そのオブジェは女性の姿を掘ったものだった。まるでギリシャ神話に出てくるような衣装を身に着けた美しい女性は優しい笑みをたたえている。


「これは宰相が命じて作らせた『聖なる巫女』の彫像だ。300年前にこの国に現れた聖女・セシリアらしい。ほら、右手に果実を乗せているだろう?」


「そうですね」


「全く……何が聖女だ。神殿の力を維持したい為にこのような彫像を勝手に置くとは……」


 忌々しげに彫像を睨みつけるアルベルト。


 もしかして彼は……?


 思わずアルベルトを見上げると、私の視線に気付いたのかこちらを見た。


「どうかしたか?」


「いえ、ひょっとするとアルベルト様は『聖なる巫女』のことを……良くは思っていらっしゃらないのですか……?」


 アルベルトの態度がどうにも腑に落ちなくて、ためらいがちに尋ねてみた。


「300年前にこの地に現れた聖女セシリアのことは特に思うところは無い。何しろ実際に会ったわけでは無いからな。それに文献に記述があるだけで本当に存在していたのかどうかも怪しい」


「そう……なのですか?」


 まさか聖地のある『エデル』国の国王でありながら、聖女を否定する言葉が口から出てくるとは思わなかった。回帰前はあんなにカチュアに傾倒していたのに……。


「ましてや、あのカチュアとか言う女が聖女だとは増々信じられない。どうせ宰相が勝手にでっち上げたに決まっている。いつか必ず尻尾を掴んでやる」


 何故か憎々しげに語るアルベルト。


 本当に彼はどうしてしまったのだろう?もしかして私が回帰したことと彼の変化は何か関係があるのだろうか?


「クラウディア」


 不意に名前を呼ばれた。


「はい」


「あの女との勝負だが……本当に勝算はあるのか?」


 アルベルトは真剣な眼差しを向けてくる。


「はい、勝てる見込みが無ければ勝負など受けません」


 宰相のことだ。もし私が負ければ聖女を冒涜した罪だと言い……最悪、断頭台に送られてしまうかもしれない。

 けれど、私は彼女に勝てる自信がある。


「そうか……ある意味、あの女の化けの皮を剥ぐにはもってこいの勝負かもしれないが……」


 不意にアルベルトの腕が伸びてきた。


「!」


 そして次の瞬間、抱きしめられていた。


「もし、万一……仮にお前が負けてしまったとしたら……いや、そんな事は考えたくも無いが、そのときは……お前をこの国から逃してやるからな?」


「え……?」


 その言葉に耳を疑う。アルベルトは本気でそんなことを考えているのだろうか?


「ですが、そんなことをすれば……幾らアルベルト様でさえ、ただではすまないのではありませんか?」


 顔を上げてアルベルトを見上げた。


「別に俺のことは気にするな。お前さえ、無事でいてくれたなら……それだけで十分だ」


 そして再度、強く抱きしめられた。


 アルベルトの腕の中は……何故か、彼の記憶を思い出される。


「大丈夫です。私は負けませんから」


 そして私はそっと、アルベルトの背中に腕を回した――。



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