第2章 111 私からの要求
「クラウディア様。本当に勝負を受けるつもりなのですな?今ならまだ考え直すことが出来ますぞ?『聖なる巫女』であるカチュア殿に謝罪すればですが……」
宰相は明らかに動揺している。まさか私が本当に勝負を受けるとはおおよそ考えてもいなかったのだろう。
「いいえ、勝負をやめるつもりも謝罪するつもりもありません。逆に私が勝った場合、私の侍女とメイド達に謝罪を要求します。ついでに私をここまで連れてきてくれたユダ達にも謝罪して下さい」
今までの私は、この国で見下されても自分1人が我慢すれば良いことだと考えていた。何しろ回帰前は私の味方はリーシャただ1人きりだったから。
けれど今は違う。
リーシャだけでなく、マヌエラ、エバがいる。それにトマスにザカリー。そして『エデル』の兵士でありながらユダも私の味方でいてくれる。
私のせいで、彼らまで見下されるようなことはあってはいけない。
「な、何と身の程知らずのことを言うお方だ。自分の立場も弁えず……」
「立場を弁えないのは、むしろ宰相!お前の方だ!」
突然アルベルトが宰相を叱責した。
「陛下、お言葉ですが……まだクラウディア様とは婚姻されておりません。今はこの方は我が国の敗戦国の人質に過ぎないのですよ?」
「黙れ!口を慎め!」
その言葉に宰相の眉が険しくなる。
「陛下……お忘れのようですが、私は先代の頃よりこの国の宰相を務めております。それだけではなく、神殿にも通じているのですよ?その辺りをもう少し冷静に考えるべきだと思います」
リシュリーは怒りを抑えているつもりだろうが、顔は赤くなっている。
「そうか。一応忠告として受け止めておこう」
私は2人のやり取りが未だに信じられなかった。以前のアルベルトは宰相の言いなりになっていたのに……。
やはりあのときのアルベルトは操られていたのだろうか?
そして次に宰相は再び私に視線を移した。
「しかし……陛下がそれほどまで言うのであれば良いでしょう。もし万一この勝負でクラウディア様が勝つことが出来れば、カチュア殿と一緒に謝罪致しましょう。侍女とメイド……監獄に入れた者達に」
「ええ、お願いします」
「では、早いほうが良いですな。それでは1回目の黄金の果実を持ってくる勝負は2日後の午前10時に行いましょう。いかがですかな?」
「何?!たった2日後だと?!幾ら何でも唐突すぎるだろう?!」
宰相の提案にアルベルトは目を見開く。
「分かりました。2日後ですね?」
2日もあれば十分だ。
「クラウディア、本当にお前はそれでいいのか?」
「はい。問題ありません」
アルベルトの問いかけに頷いた。
「それでは2日後の午前10時、神殿前でお待ちしております。そうそう、聖地は広いですからね。馬を使われたほうが良いでしょう。クラウディア様は馬には乗れますか?」
「いいえ、乗れません」
アルベルトは黙って私と宰相のやり取りを聞いている。
「そうですか。実はカチュア殿も馬には乗れないのですよ。では馬に乗せてもらえる供をそれぞれ1名までなら付けて良いことに致しましょう。宜しいですかな?」
「はい、大丈夫です」
「それでは話も決まったことですし……私はこれで失礼致します。どうもお食事中、失礼致しました」
「ああ。用件が終わったなら下がるがいい」
不機嫌な様子を隠すこと無くアルベルトは宰相に言葉を投げかける。
そんなアルベルトに宰相は苦笑しながら部屋を出て行った――。




