第2章 103 彼の心配
「え?アルベルト様?どうされたのですか?お仕事中だったのではありませんか?」
しかし、アルベルトは返事をせずに辺りをまるで警戒するかのように見渡すと部屋の中に入ってきた。
そしてカチリと後手に鍵を掛ける。
一体、彼は何をしにここへやって来たのだろう?
「あの……?」
するとアルベルトは眉間にシワを寄せると詰め寄ってきた。
「どういうことだ?クラウディア。お前……宰相とあの女に勝負を挑んだそうじゃないか?城中で話題になっているぞ?」
「え?まさかもう知れ渡っているのですか?一体誰がそんなことを……」
言いかけて、愚かな質問をしてしまったことに気付いた。そんなことをする人物は決まっているのに。
「勿論いいふらして回っているのは宰相とあの女だ。あの2人は城内の者達を懐柔しようとしているからな……いや、そんなことはどうでもいい」
アルベルトは髪をかきあげるとため息をついた。
「何故俺に何の相談も無く、勝手に勝負することに決めたんだ?勝算はあるのか?もし負けたら……ただでは済まないかもしれないんだぞ?!そんなに……この俺が信用できないのか?!」
言うなりアルベルトの腕が伸びてきて、気付けば私はアルベルトに抱きしめられていた。
「ア、アルベルト様……?」
アルベルトの身体は震えていた。彼は私を胸に埋め込まんばかりに強く抱きしめて苦しげに訴えてくる。
「お前は宰相の恐ろしさを知らないのか?あの男は先代の父の代から権力を握っていた。神官の出自だということで、神託が下ったと言っては好き放題にこの国を動かしてきたのだ。信仰深かった父は宰相の言葉を鵜呑みにし……『レノスト』国を……」
え?今……アルベルトは何を言おうとしているのだろう?
「あ、あの……アルベルト様……」
声を掛けると手が緩み、私から離れるとアルベルトはため息をついた。
「いいか?この際だからはっきり言おう。宰相は『聖なる巫女』を名乗るあの女をこの国の国母にしようと目論んでいる。そうすれば自分の地位が絶対的な揺るぎないものに出来るからな。だが、そんな話は冗談じゃない」
私は黙ってアルベルトの話を聞いていた。彼の話はまだ続く。
「何故得体も知れない女を妻にしなければならない?誰を妻にするのかは俺の決めることだ。だが宰相は自分が連れてきたあの女を何としてでも王妃の座に就かせようとする為に、『奇跡の力』を披露しようとする計画を立てているのは既に掌握していた」
「え?そうだったのですか?」
「ああ。だが、そんなくだらない話は取るに足らないことだから相手にするのはやめにしようと思っていたのに……何故、お前は勝負に挑んでしまったのだ?しかも圧倒的に不利な状況で……もし負ければ俺ですらお前を守りきれないかもしれないのだぞ?!」
アルベルトは青ざめた顔で私を見つめている。その目は……本当に私を心配しているように思えた。
何故、そこまでアルベルトが私の身を案ずるのかは分からなかった。
けれど……。
「つまり、アルベルト様。『聖なる巫女』との勝負に私が勝てば……今の状況を覆せるかもしれなということですね?」
「何……?」
怪訝そうに見つめるアルベルトに、私は笑みを浮かべた――。




