第2章 102 深まる疑問
その後マヌエラが迎えに来たので、私はザカリーにまた訪ねに来ると告げて訓練場を後にした。
自室へ戻る為に回廊を2人で歩いていると、マヌエラが話しかけてきた。
「ザカリーさんとはお話がはずみましたか?」
「ええ、やはり同郷の仲間と話が出来るのっていいわね」
「仲間……ですか?」
マヌエラが怪訝そうに首を傾げる。
「ええ、仲間よ?それがどうかしたの?」
「いえ、クラウディア様は王女様。そしてトマスさんもザカリーさんも領民ですよね?」
「ええ、そうよ」
「身分も立場も違うのに……クラウディア様はあの2人を仲間と呼ぶのですね?」
確かにマヌエラの言うとおりかもしれない。
回帰前の私は、世間知らずで傲慢な人間だった。錬金術師でありながら、困っている人々の為に力を使うどころか、自分の欲を満たす為だけに錬金術を使っていたのだ。
けれど、日本人に転生して私は変わった。
誰もが平等に暮らす社会、戦争の無い平和な世界。そして……大切な人たちと過ごしたかけがえのない日々が私を変えた。
私はマヌエラに自分の考えを語った。
「確かに私は王女だったけれど、彼らと同じ人間だもの。それに私を心配して故郷を離れて、『エデル』に付いてきてくれたのよ?私にとって大切な仲間だわ」
「そうですか。やはりクラウディア様は陛下の仰っていた通りの方ですね」
「え……?」
マヌエラの言葉に耳を疑った。
「待って。アルベルト様は私のことを何と言っていたの?」
「はい。人々を思いやれる女性だと話しておられました」
「そ、そうなの?」
にわかにその言葉が信じられなかった。
アルベルトが私のことをそんな風に思っていたなんて……。
それでは、回帰前の彼は一体どうなのだろう?私のことを傲慢で身勝手な女だと言っていたのに?
そして国を滅ぼす悪妻として断頭台に送りつけたのは、他でもないアルベルトだったというのに。
「クラウディア様。どうされましたか?顔色が悪いですよ?」
私の異変に気付いたのか、マヌエラが声を掛けてきた。
「いえ、大丈夫よ……」
「いいえ、今日はもうお部屋に戻って休まれていたほうが良いです。何しろ宰相とのやり取りもありましたから」
マヌエラは本当に心配そうに私を見つめている。
「そうね、分かったわ。今日はもう部屋で大人しくしていることにするわ」
「ええ、そのほうが良いです。また厄介な者達に会わないように、早めにお部屋にもどりましょう」
「厄介な者達」の顔を思い浮かべ、思わず私は苦笑してしまった――。
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自室にたどり着くとマヌエラは「後ほどお茶をお持ち致します」と言葉を残して去っていった。
「ふぅ……」
ソファに座ると背もたれに寄り掛かり、ため息を付いた。
「きっと、また近いうちに宰相が訪ねてくるはずね。その前に準備をしておかないと……」
そして先程のトマスとザカリーの話を思い出した。
2人は私と一緒に領地に里帰りしてみないかと話を持ちかけたら、とても喜んでくれていた。
「早目に、実現させてあげたいわ……」
そして、再びスヴェンのことを思い出した。きっと、彼もここにいたら領地に行くことを喜んでくれたことだろう。
そんなことを考えていた矢先――。
コンコン
『クラウディア?部屋に戻っているのか?!』
ノック音と同時にアルベルトの切羽詰まったような声が扉の外で聞こえた。
「え?一体何事かしら?」
急いで扉を開けると、そこには髪が少し乱れて息を切らせたアルベルトが立っていた――。




