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第2章 100 トマスとの再会

 マヌエラに案内されてきたのは調合室と呼ばれる実験室のような部屋だった。室内はとても広く、白衣を着た何十人もの人々が忙しそうに働いている。

 ある者は乳鉢で葉を擦り潰し、またある者は大きな鍋で何かを煎じている。まるで科学の実験をしているような光景に目を凝らしていると、不意に大きな声で呼ばれた。


「クラウディア様!まさかいらして頂けるとは思ってもいませんでした!」


「え?」


 振り向くと、白衣を着たトマスがこちらに駆け寄ってくる。


「トマス!」


 城に来て初めてトマスに再会出来た喜びで私の顔に笑みが浮かぶ。


「見て下さい、この白衣……城で働く薬師の制服なんですよ?これを着て働くのが僕の夢だったのです。クラウディア様のお陰です。ありがとうございます!」


 トマスが頭を下げてきた。


「そんな事は気にしなくていいのよ。それにトマスがここで働けるのは私の力ではないわ。陛下が口添えをしてくれたからよ」


「いいえ、それでもクラウディア様という後ろ盾が無ければ僕はここで働くことが出来ませんでした。本当に感謝しております」


「トマス……」


 トマスは知らないのだろうか?私がこの城で何と呼ばれているか……どんなふうに思われているのか……。


「クラウディア様。私はここの室長と話しをしてまいりますので。それでは失礼致します。後ほどお迎えに参りますので」


 マヌエラはそれだけ告げると、去って行った。


「ひょっとすると……気を利かせてくれたのでしょうか?」


 トマスがマヌエラの後ろ姿を見ながらポツリと言った。


「ええ、そうかもしれないわね」


「ところで、あの方はどなたなのでしょう?」


「彼女はマヌエラと言って、陛下が私に付けてくれた侍女なの」


「そうですか……。綺麗な方ですね」


 トマスが少しだけ頬を赤く染めながらマヌエラの後ろ姿を見つめている。ひょっとして……彼女のような女性がトマスは好みのタイプなのだろうか?


「ええ、そうね。彼女は綺麗だし、とても頼りになる女性よ」


「そうなのですね。あ、ところで折角いらして下さったのですからお茶でも飲んでいかれませんか?」


「え?でも……いいの?仕事中でしょう?」


 周囲を見渡すと、誰もが皆忙しそうに仕事をしている。


「いえ、いいんですよ。ここでは個人個人で自由に自分の作ってみたい薬を研究している施設ですから。実際に出来上がった薬を管理している人たちはまた別にいるんです」


「そうだったのね……なら、折角だからお茶を淹れてもらおうかしら?」


「はい!」


 返事をするトマスはとても生き生きとして見えた。



****


「どうぞ、クラウディア様」


トマスが窓際に設置されたテーブルに座る私の前にティーカップを置いてくれた。


「素敵な香りね」


カップの中は湯気立つ、すみれ色の飲み物が注がれている。


「これは僕が調合したハーブティーなんです。滋養強壮の効果があります」


「ありがとう」


早速手に取り、飲んでみた。少しだけレモンティーのような味がする。


「どうですか?」


「美味しいわ。何だか疲れが取れるような気がする」


「そうですか。良かったです。あの……ところで大丈夫ですか?随分お疲れのように見えるのですが……」


「そう?……でも確かに少し気は張っているかもしれないわね」


 何しろ、この城に来てからは気の休まるときがない。疲労がにじみ出ていたのかもしれない。


「あの……僕で良ければ……あまりお力にはなれないかもしれませんが、お話くらいなら聞いて差し上げることが出来ますので……」


「ありがとう、その気持だけで十分よ。そうだ、ところでトマス。貴方はスヴェンのことを知っている?」


 私は無駄とは思いつつ、尋ねてみた。


「スヴェンですか……?誰のことです?」


 案の定、トマスは首を傾げる。


「いいえ、何でも無いのよ。気にしないで?」


 やっぱりトマスの記憶からもスヴェンが消えている。この分だとザカリーも……。


 それから少しの間、マヌエラが迎えに来るまで私とトマスは互いの近況報告をしながら会話を楽しんだ――。

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