第2章 99 名乗りを上げた理由
「クラウディア様。宜しかったのですか?」
歩き始めると、すぐにマヌエラが話しかけてきた
「え?何が?」
「陛下の許可も得ずに、あのような約束をしてしまったことです」
「あぁ……さっきのことね?」
「はい、そうです。何故あんな無謀な賭けに乗ってしまわれたのですか?クラウディア様は宰相がどれほど狡猾な人間かご存知ないから、あのような発言をしてしまわれたのでしょう?」
「だけど、私は宰相が許せなかったのよ。私のことはどう言われても構わないけれど、貴女に罰を与えるなどと言い出したことが……我慢できなかったのよ」
「そのお気持ちはとてもありがたいですが。そのせいでクラウディア様を危険な目にあわせるわけには参りません。今ならまだ間に合います!私と一緒に宰相に謝りませんか?不本意だとは思いますが……」
「マヌエラ……」
彼女は真剣な目で私を見つめている。本気で私を心配しているのだということが、その様子で分かった。
マヌエラが珍しく感情をあらわにしている。私のことを本気で心配していることがひしひしと伝わってくる。
今回の賭けがどれほど重要なのかはよく分かっていた。もし万一カチュアが奇跡の力を見せれば、賭けは私の負けとなる。そうなればマヌエラはこの城をクビにされるかもしれない。そして私は魔女のレッテルを貼られたまま最悪の場合断頭台行きに……。
「ありがとう、マヌエラ。でも大丈夫よ」
「何が大丈夫なのですか?!」
悲痛な声で私を見るマヌエラ。
「大丈夫、今回の勝負には自信があるのよ?」
彼女を安心させる為に笑みを浮かべた。
「な……何故そう言い切れるのですか?」
「それは……私が魔女だからよ?」
ニッコリ笑うと、マヌエラが眉をしかめる。
「クラウディア様、私は本気で心配しているのですよ?それなのに……」
「ごめんなさい、今のはほんの冗談よ。でも本当に大丈夫、私を信じてくれる?」
「分かりました……クラウディア様」
「そう?それではトマスの所へ案内してくれる?」
「はい。参りましょう」
そしてマヌエラは再び私の前を歩き出した。そんな彼女の後ろ姿を見ながら、私は心のなかで詫びを入れた。
ごめんなさい、マヌエラ。詳しいことを話せず、貴女に余計な心配をかけさせてしまって。
けれど、私にはこの勝負に勝つ自信があった。
回帰前……カチュアは科学的根拠に基づき、日照りで旱魃になっていた領地に奇跡の力と称して雨を降らせた。
そしてその後も奇跡の力というものを、幾つも人々の前で披露している。
こうして『聖なる巫女』として、カチュアは人々の信頼を得ていったのだ。
この世界も時系列通りに進むのであれば、次に宰相とカチュアが何をしようとしているのか分かっている。
そして、それを私が実行出来るということも。
だから私は自分から奇跡の力を見せると名乗りをあげたのだから――。




