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第2章 98 宣戦布告?

「何?奇跡の力を披露してみせろとおっしゃるのですか?」


 宰相が腕組みしながら私を見た。


「ええ、そうです。本当に『聖なる乙女』と言うのであれば、奇跡を起こすことくらい可能でしょう?」


「だが、その機会を我々から奪ったのは陛下とクラウディア様。あなた方のせいではありませんか?折角カチュア殿の祈りで『ソリス』の町に雨を降らそうと思っていたのに陛下によって妨害された。そしてあまつさえ、クラウディア様。貴女が怪しげな魔術で水を蘇らせたのですよね?」


 宰相の話にカチュアはその通りと言わんばかりに頷く。


「リシュリー宰相……。アルベルト様が申し上げていた通り、日照りが続いている状態で火を燃やすなど危険極まりない行為です。本当に奇跡の力を持っているのならば、別に火を燃やす必要も無いのではありませんか?わざわざ山に登り、祈りを捧げなくとも、あの場で祈れば良いだけの話です」

 

「な、何ですと……」


「それに何故私が水を蘇らせれば、怪しげな方法になるのですか?私が魔女という

噂を流したのはリシュリー宰相、貴方なのではありませんか?」


 宰相は顔を真っ赤にさせて、身体を震わせながら私を睨みつけている。


 ついに言ってしまった……。


 回帰前と同じ運命を辿らないように、この国で静かに生きようと思っていたのに。いずれはアルベルトとカチュアが恋仲になるだろう。そのときを見計らい、彼と離婚をして国に帰ろうと思っていたのに……。

 幼い弟、ヨリックの待つ『レノスト』へ――。


 突然、宰相が私を指さしてきた。


「そうですか。ではクラウディア様、貴女はひょっとすると自分が『聖なる乙女』だとでも言いたいわけですかな?」


「そんな事は一言も話してはいませんが?」


 一体、宰相は何を言い出すのだろう?あまりの話に目を見開く。


「リシュリー様!何を言うのですか?!」


 慌てた様子で声を上げるカチュア。しかし、宰相はカチュアの訴えが耳に入らないのか話を続ける。


「良いでしょう……。それならカチュア殿が『聖なる巫女』である証拠を見せればよいのですな?では賭けを致しましょう」


「賭け……?」


「ええ、そうです。賭けですよ。カチュア殿が奇跡の力を見せることが出来れば……そうですな?クラウディア様を罪人として処罰させて頂きましょう。『聖なる乙女』と神殿を侮辱したと言う事で……」


「リシュリー宰相!何てことを仰るのですか?!クラウディア様は陛下の妃になられるお方ですよ!」


 マヌエラが悲痛な声を上げる。


「だが、まだ婚姻すら上げていない。今のクラウディア様は所詮敗戦国の人質姫ですからな」


 宰相はニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。


「分かりました。……いいでしょう。ただし、条件があります」


「条件……ですと?」


「はい、先程リシュリー宰相は私に怪しげな魔術で水を蘇らせたと仰いましたね?」


「ええ。確かに言いましたが?」


「それでは私もカチュアさん同様に奇跡の力とやらを見せれば……謝罪と撤回を要求します」


「謝罪と撤回……?」


「はい、あのメイド達は私の侍女であるマヌエラを侮辱しました。彼女たちの謝罪です。そして私が魔女だと言うあらぬ噂を流した事への撤回です」


 私は失礼な4人のメイド達を見た。彼女たちは後ろめたそうに私から視線を逸らす。


「クラウディア様……」


 背後ではマヌエラが息を呑む気配を感じた。


「ええ、いいでしょう。それ位どうってことありませんよ?たったそれだけのことで宜しいのですか?」


「ええ、いいです」


 本当は言いたいことは山ほどあった。けれど、これ以上宰相の神経を逆なでする訳にはいかない。


「分かりました……なら良いでしょう。どのような奇跡の力を見せてもらうか、数日以内に考えておきましょう」


 宰相が冷たい笑みを浮かべる。


「ええ。お待ちしております。それでは私たちは用事があるので、これで失礼致します」


「ええ、また。クラウディア様」


 カチュアが笑みを浮かべて、挨拶を返してくる。


「成程……我々への宣戦布告というわけですな?流石は『レノスト』国の姫でいらっしゃる。勝負が楽しみですな」


 リシュリー宰相が声を掛けて来た。彼の中では、いつの間にか私とカチュアの勝負になっていたようだ。

 

「ええ、そうですね。では行きましょう、マヌエラ」


「あ……は、はい!」



 そして私はマヌエラを連れて、その場を後にした――。



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