第2章 96 言い争い
美しい中庭に面した回廊を歩いていると、賑やかな声が聞こえてきた。
「誰かいるのかしら?」
綺麗に刈り込まれた緑の芝生の先にある赤い花が所々に咲いている垣根がある。
賑やかな声はその垣根の向こう側から聞こえている。
「え?ええ。実は……」
その時、私の目に石造りの美しいガゼボに4人のメイド達と一緒にお茶を楽しんでいるカチュアの姿があった。
「カチュアさん……」
思わず足を止めてその様子を見ると、マヌエラが眉をしかめる。
「全く、あの方は……図々しくも自分がお気に入りのメイドたちとあのガゼボでお茶を飲んでいるのですよ?あそこは亡くなられた王妃様がお気に入りの場所だったのに……」
亡くなった王妃……。
アルベルトの母親だ。確か彼女は戦争が始まる数年前に病で亡くなられていた。
するとカチュアが私の姿に気付いたのか、立ち上がって手を振ってきた。
「まぁ!なんて図々しい……!よりにもよってクラウディア様に手を振るなど!」
マヌエラの苛立ちが募ってくる。彼女もアルベルト同樣カチュアを良くは思っていないようだ。
そして、カチュアはガゼボから出てくると、こちらへ笑顔で向かってきた。
「クラウディア様。またお会いしましたね。私達、今ガゼボでお茶を飲んでいたところです。良かったら御一緒しませんか?」
垣根の向こうからにこやかに声を掛けてくるカチュア。
「そんなことよりも、カチュアさん。そこのガゼボは陛下のお母様がお気に入りの場所だったのですよ?陛下の許可は取ってあるのですか?」
私が返事をする前に、マヌエラが強い口調で責めた。
「いいえ?でもリシュリー宰相の許可は頂いていますけど?私は『聖なる乙女』なのだから、この城の施設は自由に使って良いと言われております」
いつの間にかガゼボの中にいたメイド達も集まっており、クスクス笑いながらこちらを見ている。
その様子に増々マヌエラの顔が険しくなる。
「な、なんて生意気なメイドたちなのでしょう。クラウディア様に挨拶もせず、しかも小馬鹿にするかのように笑う等と……!」
すると次々とメイドがこちらに向かって言葉を投げつけてきた。
「え?そちらにいらっしゃる方が、敗戦国から嫁がれてきたクラウディア様ですか?」
「あまりにも貧相なお召し物だったので、どなたか分かりませんでしたわ」
「ああ、でもまだ婚姻されているわけでは無いので客人ですね」
「確かこの間、真夜中にまるで夢遊病のように城を抜け出していましたよね?」
「……」
私は黙って彼女たちの話を聞いていた。彼女たちの話していることは全て間違ってはいないからだ。それに、変に反発すればあらぬ噂を立てられかねない。
けれど、マヌエラはそうはいかなかったようだ。
「何ですか!その口の利きようは!あまりにも無礼ですよ!全てアルベルト様に報告させて頂きますからね!」
「無礼なのはどちらだ?」
マヌエラが強い口調で言い切った時、背後から声が聞こえてきた――。




