第2章 95 トマスのその後
マヌエラが部屋を出ていき、再び1人きりになった私は祖母の日記帳を読み始めた。
「う〜ん……なかなか移動魔法のような錬金術は無いわね……」
こうなったら、自分で錬金術を生み出さなくてはならないだろうか?けれどそのような経験は無いし、万一失敗すればどのような目に遭うか分からない。
過去の歴史に置いて、新たな錬金術を生み出そうとして失敗して多くの錬金術師が命を落としている。
中には周囲を巻き込んでしまい、村が滅んでしまった過去があると祖母に聞かされた。
「新しく錬金術を生み出すにはリスクが伴うわね……。万一のことを考えると迂闊に手を出すことが出来ないわ……」
大体、私が錬金術師であることは内緒なのだ。錬金術の研究をしたいので、そのための場所を提供して欲しい等、言えるはずもいない。
そう言えば……錬金術と言えば、必ず賢者の石が必要になってくる。
アルベルトが左薬指にはめてくれた賢者の石をじっと見つめた。
「何故、この国に賢者の石があるのかしら……」
ひょっとすると、この城には錬金術についての本があるかもしれない。もう一度図書館に行ってみる価値はありそうだ。
その時、扉のノック音と共にマヌエラの声が聞こえてきた。
『クラウディア様、宜しいでしょうか?』
「ええ。どうぞ、入って」
「失礼致します」
マヌエラが部屋に入ってきた。
「どう?トマスとザカリーが今どこにいるか分かった?」
「ええ、分かりました。今から御案内致します」
「ありがとう」
「ではまずトマスという方の所へ御案内致します」
「ええ、お願いね」
そして私はマヌエラに連れられて部屋を出た。
「トマスさんは城内に在籍する薬師たちと共に働いているそうです」
長い回廊を歩きながらマヌエラが説明してくれる。
「そうなのね。彼は『エデル』で薬師を目指したいと話していたから……夢が叶って良かったわ」
「はい。本来城内で薬師として働くのは熟練者でなければ難しいのですが、陛下のお力添えで彼はここで働くことが出来ました」
「え……?アルベルト様の……?」
マヌエラの話は驚きだ。まさかアルベルトがトマスを採用したなんて……。
「最初は周囲からよく思われていなかったようですが、彼は中々薬の知識に長けていて、今ではすっかり打ち解けて仕事に励んでいるそうです」
「そうなの?それは良かったわ」
思わず笑みを浮かべると、マヌエラが尋ねてきた。
「嬉しそうですね。クラウディア様」
「ええ。彼はここまで旅をしてきた大切な仲間だから」
まだ『エデル』に着いてから然程時間が経過しているわけではないが、昔のことに感じてしまう。
あの旅は困難な旅路だったが、その困難な出来事があったからこそ仲間意識が強まった。
けれど……そこにスヴェンの姿は無い。
それが無性に寂しかった――。




