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第2章 86 腹黒いリシュリー

「これはこれは……何処のどなたかと思えば、クラウディア様ではありませんか?」


リシュリーは背筋が寒くなるような冷たい声で私に語りかけてきた。


「……っ」


 何と答えれば良いのか分からず、言葉を失っているとリシュリーは更に続ける。


「まさか、ここで盗み聞きでもされていたのですか?流石は敗戦国の王女様だ。よいい趣味をなさっている」


「そ、それは……」


 するとハインリヒが代わりに答えた。


「これからクラウディア様は陛下と夕食をご一緒されるのです。それで執務室まで私がお連れしました」


その時――。


「何だ?誰かそこにいるのか?」



 執務室の中からアルベルトの声が聞こえてきた。


「それでは私は失礼致します」

 

 リシュリーは私にお辞儀をすると、歩き去って行った。私に聞こえよがしに舌打ちをしながら……。


「「……」」


 私もハインリヒも黙ってリシュリーの後ろ姿を見届けていると、アルベルトの声が聞こえてきた。


「え……?クラウディア?!」


 振り返ると、アルベルトが大股でこちらへ向かってくる姿が目に入った。


「お前、一体何故ここにいるのだ?!まさか……今の話、聞いていたのか?」


「はい……聞こえてしまいました……」


 隠し立てしていても仕方がないので、正直に頷く。


「私がクラウディア様をこちらにお連れしました。陛下のお迎えをする為に」


「そうか……。お前がクラウディアを連れてきたのか……」


 アルベルトはため息をつくと、すぐに私に声を掛けてきた。


「いいか?クラウディア。リシュリーの話は気にするな。少し中に入って話をしよう」


「分かりました」


 リシュリーの性格は良く分かっている。何を話しても無駄なのに……。それでも私は頷いた。


「ハインリヒ、お前はもう下がっていい」


「はい、それでは失礼致します」


 返事をするハインリヒ。


「よし、クラウディアは中に入れ」


「失礼致します」


 アルベルトから背中に手を添えられて招かれるように私は執務室の中へと入った。


 「とりあえず、座るといい」


「はい」


 執務室の中には大きなソファセットが置かれている。言われるままに私はソファに腰掛けると、向かい側にアルベルトが座った。


「クラウディア。リシュリーの言葉は気にする必要はない」


アルベルトは再び同じ言葉を口にする。


「え?ですが……」


 自分がこの国に呪いを掛けた魔女だと言われているのに気にする必要はないと言われてもそれは無理な話だ。


「宰相の言葉はただの言いがかりだ。大体クラウディアが魔女だと?馬鹿げた話だ」


 肩をすくめるアルベルト。


「けれど、これは深刻な話だとは思いませんか?私はただでさえ、敗戦国から嫁いできた王女です。国民感情だって良くはないでしょう?それなのにこの国に呪いを掛けた魔女だと言われてしまえば、アルベルト様の立場も悪くなってしまいます」


「リシュリーの言葉はほんの一部の者達の声に過ぎない。しかもあらぬ噂を流しているのは、リシュリーに買収された者達ばかりだ。既に調べはついている」


「え………?」


 その言葉に耳を疑う。


「まさか、宰相は私を貶める為だけに人々を買収してそのような真似をしているのですか?」


「そうだ。だがリシュリーの狙いはそれだけでは無いはずだがな」


 ポツリとアルベルトが意味深なセリフを言う。


「え?陛下?今何を……?」


「いや。何でも無い。確かにリシュリーの策略でお前を悪く言う者達がいるのは確かだ。けれど、それ以上にお前を称える声のほうが多いのは事実だ。だから堂々としていればいい。よし、それでは食事に行こうか?」


 立ち上がったアルベルトは笑みを浮かべながら私に手を差し出してきた――。



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