第2章 83 帰路につく馬車の中で
その後も、私達はいくつかの村や町を訪れた。
どこも日照り続きで苦しい生活をしていた。しかし、私が用意した『生命の水』によって水が蘇り……その度にアルベルトは私に感謝するように人々に告げた。
そして、私の評価はあちこちの領地でまたたく間に上昇したのだった――。
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本日、予定していた領地を全て回り……私達は帰宅の途に就いていた。
空はすっかり薄暗くなり、空には一番星が輝いている。
「大丈夫か?クラウディア。今日は1日、領地めぐりをしたので疲れたりしていないか?」
向かい側に座るアルベルトが気遣うように声を掛けてきた。
「いいえ、これくらい大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「お前を気遣うのは当然だろう?」
「アルベルト様……」
優しい目で私をじっと見つめてくるアルベルト。それは回帰前にはどんなに望んでも得られなかったことであった。彼の優しい眼差しも、声も……全てカチュアのものだったのだから。
あの頃は、それがどれだけ羨ましかったか計り知れない。それが今は特に望んだわけではないのに、当たり前のように私に向けられる。
本当に……皮肉なものだ。
「今夜は城に戻ったらゆっくり休むといい。色々疲れているだろうからな」
「はい、ありがとうございます。ところで……本当に宜しかったのでしょうか?」
「何がだ?」
「いえ、水不足を解消させてきた村や町でのアルベルト様の発言についてです。人々に仰っておりましたよね?ここが救われたのは私のお陰だと」
「それは当然だ。全てはクラウディアが行ったことなのだからな」
アルベルトは頷く。
「ですが……アルベルト様がご自身で行ったことにしても良かったのではありませんか?」
国王となってまだ日が浅いアルベルトに国民はまだ絶対的な信頼を寄せていない可能性もある。だとしたら自分の名声を上げる為に私の名前を出すべきではなかったのではないだろうか?
するとアルベルトが眉をしかめた。
「クラウディア……本気で言ってるのか?今回の立役者は全てお前だ。なのにどうして俺が自分の手柄に出来るのだ?それに……」
アルベルトが不意に私の手を握りしめてきた。
「アルベルト様……?」
「お前は俺の后になるのだ。后の評判が上がれば、良い女性を娶ったということで俺の評判も一緒に上がるとは思わないか?」
そしてアルベルトは握りしめた私の手をすくい上げ……手の甲にキスをしてくると、笑みを浮かべた。
「ア、アルベルト様……」
不覚にもアルベルトのその態度に狼狽える私。橋本恵として生き、結婚して2人の子供も設け……45歳まで生きてきた私だった。
なのに、こんなことで狼狽えるとは……。しかも相手は回帰前に私を断罪し、処刑台に追いやった相手なのに……?
でも、きっとこれは……アルベルトが彼の面影を宿しているからに違いないからだ。
私は自分の心に無理に言い聞かせるのだった――。




