第2章 77 私に対する言いがかり
「クラウディア?お前に何か良い案があるのか?」
アルベルトは私に尋ねてきた。その瞳には期待が込められているように見えるのは何故だろう?
すると宰相が鼻で笑った。
「は?クラウディア様。貴女に一体何が出来るというのです?所詮敵国に嫁いできた貴女にとっては、この国がどうなろうと知ったことではないのですか?それともよもや呪いでも掛けるおつもりですかな?」
え?呪いですって……?この言葉は流石に頂けない。
その時――。
「リシュリー!クラウディアに対して何という口の聞き方をする?!身の程をわきまえよ!」
突如、アルベルトが声を荒らげた。
「で、ですが陛下、国民たちの声を聞いていないのですか?皆がクラウディア様を后に迎えることに不満を持っていることに。中には此の日照りはクラウディア様のせいではないかと言われているのですよ?敵国で敗戦国の王女を娶るなど……縁起でもないことをするからだと。そうですよね?マーフィー伯爵」
宰相は伯爵に目を向けると、伯爵は狼狽えながらも頷いた。
「ええ、そうですね……確かにそのような噂が出回っております……」
その言葉に衝撃を受けた。
確かに城の人々の様子から自分が歓迎されていないのは知っていた。けれど、そんな目で私が見られていたなんて……。
「黙れ!!」
アルベルトが激しく叱責した。それは物凄い迫力で私を含め、周囲の者たちをも驚かせた。
「へ、陛下……わ、私は陛下の為を思って……」
宰相は顔を青ざめさせながらも、まだ何か言おうとしている。
「それを言うなら、宰相。お前はどうなのだ?そこに立っているカチュアとやらは本当に『聖なる乙女』なのか?大体日照りがクラウディアのせいだとすると、そこにいる女だって同樣だ。何しろ2人は同じ日に、我が国へやってきたのだからな!」
「「!!」」
アルベルトの言葉に宰相とカチュアの顔が青ざめる。
「お前たちは帰れ。ここの視察は我等だけで十分だ」
「へ、陛下……」
尚も声をかけようとする宰相。その図太さに私は半ば呆れてしまった。
「まだいるのか?帰れと言っているだろう」
「わ、分かりました……。帰りますが……」
宰相は私に視線を移した。
「とてもクラウディア様に解決できるとは思いませんがね。我々でしたらいつでも陛下のお役に立ちますので。では失礼致します。行こう、カチュア」
まるで捨て台詞のような言葉を吐いた宰相はカチュアに声を掛けた。
「は、はい……失礼致します」
カチュアは頭を下げるも、アルベルトは返事をしない。
そして宰相たちは背を向けると歩き去って行った。
「全く……何という奴らだ」
アルベルトは吐き捨てるように言うと、私に声を掛けてきた。
「クラウディア、宰相の言葉は気にする必要が無いからな?」
そして私に笑いかけてきた。
「はい、ありがとうございます……。でも、宰相にあのような態度を取っても良かったのでしょうか?」
「大丈夫だ。奴は神殿との繋がりは深いが、この国の王は私なのだからな。何も気にすることはない」
アルベルトは自信たっぷりに頷く。
「はい……そうですね」
けれど、私の中ではどうしても不安が拭いきれなかった。
そして、この不安がやがて的中することになるとは……このときの私には知るよしも無かった。
私はまだ何も分かっていなかったのだ。
回帰前と今とでは……違う歴史を歩んでいるということに――。




