第2章 71 信用を得るには
翌日はスッキリした寝覚めだった。
「う〜ん……よく眠れたわ……」
ベッドから起き上がり、伸びをすると時計を確認した。時刻は午前6時を指している。
「まだ時間もあるし……今日は1人で準備しましょう」
早速ベッドから降りると、朝の支度の為にクローゼットへ向かった。
「どれにしようかしら……」
アルベルトが用意してくれた服は殆どが高級そうなドレスばかりで、普段着になりそうな服がほとんど無かった。
「出歩くのにこんなに丈の長いスカートでは足さばきが悪いわ」
それに領地視察に行くのに、ドレスを着ていくわけにはいかない。これから視察する領地は水が枯渇している場所なのだ。恐らく領民たちは苦しい生活をしているに違いない。
そのような場所に、着飾ったドレスで行けるはずなど無かった。
「何かもっと落ち着いた服は無いものかしら……。あ、これならまだマシかもしれないわ」
私はクローゼットからドレスを手に取った――。
着替えをし、髪をアップに結い上げたときに扉をノック音とともにリーシャの声が聞こえてきた。
「クラウディア様、お目覚めでしょうか?」
「ええ、リーシャ。入っていいわよ」
扉に向かって声を掛けると、「失礼致します」と言いながらリーシャが扉を開けて室内へ入ってきた。
「おはようございま……ええっ?!クラウディア様……もう朝のお支度を済ませてしまったのですか?」
リーシャが目を見開きながら私に近付いてきた。
「え?ええ。そうだけど」
「そんな……今日こそ朝のお支度をお手伝いしようと思っていたのに……」
「リーシャ、私なら大抵のことは1人で出来るから大丈夫よ?貴女はこの城の仕事も覚えなくてはならないのだから、少しでも負担を減らしてあげたかったのよ」
「クラウディア様……お気遣いありがとうございます。ですが、やはり私にももう少しお世話させて下さい」
リーシャが頭を下げてきた。ひょっとすると、私に負い目を感じているのかもしれない。いくら操られていたからとは言っても、自分のせいで私が危険に晒されたと思っているのだろう。
「分かったわ。それでは明日の朝からはお願いするわね?」
笑みを浮かべてリーシャに声を掛けた。
「はい、ありがとうございます。あの……ところで……」
リーシャが私をチラチラと見ている。
「何かしら?」
「い、いえ。今日は……随分質素なお召し物を着ていると思いまして……」
「やっぱりそう思う?」
今、私が着ているのは白いブラウスに、くるぶしまでの丈のベストとスカートが一体化された……いわゆるジャンパースカートにボレロという姿であった。 色は勿論私の好きな青である。
「はい……。とても王女様のお召し物には……あ、申し訳ございません」
慌てて頭を下げるリーシャ。
「いいのよ、あえて今日はこの服を選んだのだから」
「ですけど、今日は陛下と領地の視察に行くのですよね?」
「ええ。視察に行くのは地味な服装が一番よ」
それに……リーシャは覚えていないけれども、『エデル』に向かう道中では、もっと地味な服を着ていた。恐らく綺羅びやかなドレス姿だったなら、人々の信用を得ることが出来なかったはずだ。
「陛下が驚かれるのではないでしょうか?」
リーシャはどこか心配そうだった。
「別に驚かれても構わないわ」
何故なら重要なのはアルベルトの評価ではなく、領民達の評価なのだから――。




