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第2章 50 言えない事情

「何だって?カチュアとは……あのカチュアか?」


「はい。そのカチュアさんです」


あのカチュアとは一体どういう意味で言っているのだろう?疑問に思ったが、尋ねるのはやめにした。


「あの部屋は俺がお前の為に特別に用意した部屋だ。それを何故交換してもらいたいのだ?まさかあの女に脅迫でもされたのか?」


「いえ。脅迫されたわけではありませんが……」


「なら何故だ?そもそも交換したい理由は一体何だ?」


「そ、それは……」


理由など言えるはずが無かった。監獄に入れられたユダ達の居場所を知っている理由を宰相に追及された時、カチュアに庇って貰ったからだとは……。

思わず俯くと、アルベルトはため息をついて私を見た。


「何か深い事情があるようだな……。ひょっとしてお前が仲間だと言っていた兵士たちが監獄に捕らえられてしまったことと関係があるのか?」


「え?」


思わず顔を上げると、アルベルトは面白くなさそうにナイフで料理を切り分けている。


「宰相め……俺が不在なのをいいことに、勝手な真似をするとは……。城に戻って報告を受けて驚いた」


そしてアルベルトは切り分けた肉料理を口に運んだ。私はその様子を半ば信じられない気持ちで聞いていた。

一体何故アルベルトはここまで変わってしまったのだろう?以前の彼はまるで宰相の操り人形のようになっていたのに……。


「どうした?食べないのか?手が止まっているぞ?」


私が料理に手を付けていないことに気付いたのか、声を掛けて来た。


「い、いえ。頂きます……」


彼に促され、再び料理を口に運んでいるとアルベルトが語りかけて来た。


「今までは戦後の後処理で城を空けがちだったが……ようやく今日で落ち着いた。これからは一緒にいられる時間を増やせる。だから何か困ったことがあれば、いつでも俺に相談しろ」


「は、はい」


その声はとても穏やかで、私は信じられない気持ちでアルベルトの言葉を聞いていた。これは……現実なのだろうか?


「とにかく、部屋の件は駄目だ。あの部屋はお前のものなのだから。断りにくいのなら俺がじかにあの女に伝える。だから何も心配することは無い」


「ありがとうございます」


戸惑いばかりが大きくて、他に言葉が見つからなかった。


「よし、それならいい。それよりも体調の方はどうだ?図書館で倒れている姿を見た時は本当に心配だった。一体何があったんだ?」


「い、いえ。特に何もありません。ただ少し、疲労がたまっていたようです」


まさか見覚えの無い記憶のせいで意識を失ったとは言えなかった。


「そうか‥…やはり刺激が強かったか……?」


アルベルトが気になることを言った。


「え?今何か仰いましたか?」


「いや、何でもない。それよりもこうやって2人きりで食事をしていると昔のことを思い出さないか?」


「え?昔……」


フォークを手に、止まってしまった。


「何だ?お前は覚えていないのか?俺は良く覚えているぞ。何しろ俺が人質として『レノスト』国に捕らえられていたとき……俺に良くしてくれたのはあの城でお前だけだったからな。だが、考えて見ればお前はまだ5歳にも満たない子供だったから覚えていないか‥‥…」


アルベルトは昔を懐かしむかのように、ワイングラスを揺らした――。






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