表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/380

第2章 40 懐かしい過去と苦い過去


 リーシャが運んでくれた食事を1人で取り終えた私は部屋で窓際に置かれたソファに座り、静かにお茶を飲んでいた。


時刻は午後2時を少し過ぎた頃で、リーシャは再びメイド教育を受ける為部屋を空けている。

部屋の中は温かい日差しが差し込み、 眠気を誘う陽気である。


「それにしても暇ね……。アルベルトは何処へ行ったか分からないし……」


かと言って、別にアルベルトを探す気にはなれなかた。

彼に用があるわけではなかったが、特に会いたいわけでも無い。


ただカチュアの用件を彼に伝える必要があったから。それだけの話である。


「前世の記憶が強すぎるから時間を持て余してしまうわね」




 橋本恵だった頃の私は子育ても一段落したことで、パートで一般事務の仕事をしていた。

午前10時から午後5時までの時短勤務、仕事帰りにスーパーに寄って買い物を済ませてから家事に追われていたので忙しい日常が日課になっていた。

それでも毎日が充実していたし、愛する家族との暮らしに満足していた。


けれど交通事故に遭い……私は全てを奪われた。


次に目覚めた私を待ち受けていたのは、何故かアルベルトに嫁がなければならないという最悪な日に回帰していた。


そして旅先での様々な出来事――。



「今、こうしてのんびり過ごしていること事態が嘘みたいだわ……」


こんなに時間が余っているなら【エリクサー】を作っておきたいところだが、この部屋を狙っているカチュアや宰相がいつ現れるか分からない状況では錬金術を行うわけにはいかない。


「何処か安全な場所で錬金術を行える部屋が貰えないかしら?」


ポツリと呟いた時、部屋にノックの音が響き渡った。

てっきりリーシャだと思い込んでいた私は扉に向かって大きな声で呼びかけた。


「どうぞー」


すると扉が開かれ、部屋に現れたのは新しく専属侍女になったマヌエラだった。


「失礼致します、クラウディア様」


頭を下げるマヌエラ。


「マヌエラ……一体どうしたのかしら?」


するとマヌエラは顔を上げて笑みを浮かべた。


「ありがとうございます、クラウディア様。早速私の顔と名前を覚えて下さったのですね」


「ええ、そうね。何か用でもあるのかしら?」


「はい。もしお暇なようでしたら王宮の図書館に御案内させて頂こうかと思い、お伺いしました」


「え?!王宮の図書館に?!」


驚きのあまり、思わず大きな声を上げてしまった。


「はい。あの……どうかなさいましたか?」


不思議な顔でマヌエラが首を傾げる。


「い、いえ。何でも無いわ。図書館……いいわね。案内してくれるかしら?」


本当は図書館の場所は知っていたけれども、マヌエラに頼むことにした。


「はい、御案内しますね」


そしてマヌエラはニコリと笑みを浮かべた――。



****



「我が国『エデル』の王宮の図書館には、それこそ国宝級の蔵書が沢山保管されているのです。しかも中に入れるのは王族の方々のみなのです。私達は場所を知っておりますが、中に入ることを固く禁じられております。もっとも宰相様だけは別ですが」


図書館へ続く回廊を歩きながら、マヌエラが説明する。


「まぁ……そうだったのね」


その事実を知っていたけれども、私は敢えて知らないふりをした。


回帰前の私はアルベルトと結婚したにも関わらず、王宮図書館への出入りを固く禁じられていた。

何故なら私は敗戦国の人質妻だったからだ。


この城では、私は人々から常に疑いの目を向けられていた。

今に自分の弟と共に、反旗を翻して再び戦争を起こす気では無いだろうかと思われていたのだ。

もはや『レノスト』王国にはそのような力など全く無かったのに……。

そんな疑いの目を向けられた私が、王宮図書館への出入りを禁じられていたのは当然のことだったのかもしれない。


けれど王族でも無いのに宰相と同樣、王宮図書館へ出入りできた人物がいた。


その人物こそが、『聖なる巫女』と呼ばれたカチュアだったのだ――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ