第2章 39 山積みの問題
「こちらの部屋をカチュアさんに……ですか?」
「ええ、そうです」
遠慮する素振りもなく、頷くカチュア。
私としては彼女にこの部屋を譲るのは全く構わなかったが、勝手に私の独断で部屋を譲って良いのだろうか?
仮にもこの部屋はアルベルトが用意した部屋なのだから。
「どうでしょうか?クラウディア様」
私が返事をしないので、再度カチュアが尋ねてきた。
「分かりました。いいでしょう」
私の言葉にカチュアが笑みを浮かべた。
「本当ですか?ありがとうございます。では早速……」
「陛下に尋ねて、許可を得られたらお部屋をお譲りしますね」
「え……?陛下に……ですか?」
「はい。そうです」
「い、いや。クラウディア様、それはいくら何でも……」
宰相の顔に焦りが現れた。
「陛下に尋ねるのは当然のことです。この部屋は陛下が用意して下さったものです。許可なしに勝手にお譲りするわけには参りません。陛下にお会い出来次第、すぐに聞いてみますね」
「ええ、そうですね。ではそのようにお願い致します」
一方のカチュアは笑みを浮かべている。
「それでは話も終わったことですし、我々はこれで失礼します。カチュア殿、行きましょうか?」
「はい、リシュリー様。失礼致します」
そして2人は部屋を出ていった。
扉が閉じられると、リーシャがため息をついた。
「はぁ〜……やっと帰ってくれましたね……」
「ええ、そうね」
苦笑しながら返事をする。
「それにしても、何て酷い人達なのでしょう。宰相は罪もない方達を監獄に入れるし、先程の女性はクラウディア様に部屋を譲るように言うなんて……」
リーシャはすっかり憤慨している。
「別にいいわよ、部屋を譲るくらい。ただこの部屋は陛下が用意したものだから私の一存では勝手なことは出来ないもの」
「たしかにその通りですね。ですが陛下はお留守のようですし……一体どちらへ行かれたのでしょう?」
「国を治める人から色々忙しいんじゃないかしら」
けれど、私はアルベルトの不在よりもスヴェンの行方が気になっていた。
いや、単なる行方知れずならまだいい。
それどころかユダ達の記憶からスヴェンが消え去っていたことの方が問題だった。
「スヴェン……」
思わず、彼の名前が口をついて出てしまった。
「クラウディア様……?」
リーシャが不思議そうな顔で私を見る。
「いいえ、何でも無いわ。気にしないで?」
「そうですか?それではお昼の時間になりましたので、厨房にお食事を貰いに行ってきますね」
そう言えば宰相達が部屋を訪ねてきたせいで、結局リーシャを休ませることが出来なかった。
「ごめんなさいね、リーシャ。結局貴女を休ませてあげることが出来なかったわ」
「どうかお気になさらないで下さい。クラウディア様のせいではありませんから。それでは行って参りますね」
そしてリーシャは部屋を出て行った。
リーシャが部屋を出ていった後、今後のことを考えた。
スヴェンの記憶はユダ達からは消え去っていた。けれど、私について来てくれたトマスやザカリーはどうだろう?
彼らからもスヴェンの記憶が消えてしまっているのだろうか?
「まずは食事が済んだらトマスやザカリーに会って話を聞いたほうが良さそうね……」
けれど、2人は今何処にいるのだろう?
誰に尋ねれば分かるのだろう?
「本当に、『エデル』に着いたばかりから問題は山積みだわ……」
私はため息をついた――。




