第2章 36 休息を邪魔する者
「ふぅ〜……今日は色々あって疲れたわね」
日当たりの良い窓際に小さなテーブルを運び、リーシャと2人でお茶を飲みながら話をしていた。
「本当ですね……。何だか精神的にも疲れてしまいました」
リーシャは疲れ切った様子でお茶を飲んでいる。
「そう言えば、今何時頃かしらね……」
時計を見れば、もうすぐ午後の0時になろうとしていた。
「あ、こんなにのんびりしていられませんでした。今、厨房にお食事を取り行ってきますね」
立ち上がろうとしたリーシャを引き止めた。
「まだ私なら大丈夫よ?それほどお腹は空いていないし。それよりもリーシャ。少しここで休んでいったらどうかしら?」
リーシャの顔には疲労の色が滲んでいる。
「ええ、でも……」
「大丈夫よ。貴女は私が国から連れてきた唯一の専属メイドなのだから。貴女の主人は私なのよ?だから主人の言うことは聞きなさい?」
「はい……ありがとうございます。それではお言葉に甘えてもう少しだけ休ませて頂きます」
「ええ、遠慮せずに休みなさい」
「はい」
素直に頷くリーシャ。
可哀想に……余程疲れているのだろう。
恐らくリーシャの疲れは単に、今日監獄へ行っただけではないだろう。
今迄何ヶ月もの間、精神を支配され……最近になってようやく開放されたのだ。
そのことが疲労の要因に繋がっているはずだ。
リーシャをゆっくり休ませたい…。
そう思った矢先――。
ドンドン!
突然無遠慮に扉を叩く音が部屋に響き渡った。
全く……この城では私達に休息も与えてくれないのだろうか?
「何でしょう?あの乱暴な扉の叩き方は……」
リーシャは眉をしかめながら、椅子から立ち上がると扉へ向かった。
「どちら様ですか?」
扉越しにリーシャが声を掛けると、苛立ち紛れの声が聞こえてきた。
『私です、リシュリーです』
「えっ?!」
リーシャはすぐに私の方へ視線を向けた。
……その目は私に助けを求めている。
「いいわ、相手はこの国の宰相なのだから扉を開けて頂戴」
「はい、クラウディア様」
そしてリーシャが扉を開けると、顔を赤らめ興奮した様子の宰相が立っていた。
「クラウディア様にお目通り願いたい。この部屋にいらっしゃるのは分かっておるのだ」
宰相は高圧的な態度でリーシャに命じた。
「はい、私ならここにおります」
リーシャが返事をする前に私は立ち上がった。
「クラウディア様……少しお話を伺いたいのですが……お時間宜しいですかな?」
それは有無を言わさぬ物言いだった。
恐らく私がここで断りを入れたとしても、きっと宰相は聞き入れることは無いだろう。
「……ええ、分かりました。どうぞお入り下さい」
私の言葉にリーシャが扉の前から身を避けると、宰相が部屋に入ってきた。
しかも入ってきたのは宰相だけではない。
驚くことにカチュアも一緒だったのだ。
え……?何故カチュア迄一緒にここに……?
疑問に思うまもなくカチュアは部屋に入ると、グルリと室内を見渡して感嘆の声を上げた。
「まぁ……何て素敵なお部屋なのでしょう?しかも陛下のお部屋からも近い場所にありますし……本当に羨ましい限りですわ」
そして、意味深な目で私を見つめてきた――。




