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第1章 14 スヴェンからの提案

 教会の前には大きな木製テーブルに木製ベンチが用意され、『アムル』の村人たちは皆楽し気に食事をしている。


用意された料理はナッツ入のライ麦の黒パンに木苺のジャム。そして干し肉と乾燥青菜のスープ。


質素な料理ではあったが村人たちの心遣いが感じられ、どれもとても美味しかった。


「すみません。姫様から用意していただいた折角の食材なのにあまり時間が無くて簡単な料理しか用意出来ませんでした。とてもではありませんが、王族の方にお出し出来るような代物では無いのですが…。本当に申し訳ございません」


私の右隣に座ったドーラさんが申し訳無さそうに頭を下げてきた。


「何を言ってるのですか?どの料理もとても美味しいですよ。本当にありがとうございます」


笑みを浮かべてドーラさんにお礼を述べると、左側に座って食事をしているリーシャに声を掛けた。


「ね、リーシャ。貴女もそう思うでしょう?」


「はい、本当に美味しい料理です。ありがとうございます」


リーシャは嬉しそうに返事をする。


「むしろ私たちの分まで食事を用意して頂き、申し訳ないくらいです。本当に感謝しております」


改めて深々とドーラさんに頭を下げた。


「姫様…。そんな、私どものようなただの村人に頭を下げるなんて…」


ドーラさんは声を詰まらせて私を見た。



何故、私がここまでお礼を述べるのかと言うと…それは回帰前と今ではあまりに村人たちの対応が違っていたからであった―。



****


 回帰前の私は典型的な傲慢な王族だった。


 あの頃の私は自分の国が敗戦してしまったことで、領民達がどんな酷い生活を強いられているかなど考えてもいなかったのだ。



 3台の荷馬車に全て自分のドレスやアクセサリーばかりを積み、『エデル』の使者たちによって私はこの村へ連れてこられた。


 使者達からは、この村は『レノスト』王国の領地なので旅の休憩地点としてもてなしてもらうことになっていると告げられていた。


 ところが実際の村は戦火で焼け、食糧は尽きており、とてもでは無いが、もてなしを受けられるような状態では無かったのだ。


 挙句に村民たちは私がこの村に訪れたのは自分たちを助けてくれる為だろうと信じていただけに、馬車に積まれていたのは私のドレスやアクセサリーばかりで落胆されてしまった。


 傲慢だった私は、この村では王女である自分にもてなしの一つも出来ないのかと口走ったばかりに、村民たちの批判を買ってしまったのである。


この言葉に怒った彼らは口々に私を悪女と罵り、最終的には私とリーシャに向かって石を投げてきたのだ。


一方、『エデル』の使者たちは私達が村民たちに暴言と投石行為を受けているときにどこかに隠れ、知らんふりをして助けようとしてくれなかった。


 最終的に、1人の子供が投げた石が私の額にぶつかり怪我をした際に、初めて焦りを感じたのか、『エデル』の兵士たちが私とリーシャを助けに現れたのだ。


そして彼らは何故か私の非礼を詫び…その場を収めた。


その後、私たちは『アムル』の村をまるで逃げるように去っていったのであった―。



****


「どうしたんだい?姫さん」


不意に向かい側に座っていたスヴェンに声を掛けられ、我に返った。


「いえ、村が食料難で大変な時なのに…私達までご馳走になってしまうなんて、申し訳ないと思ったのよ。本当にありがとう」


「何を言ってるんだ?むしろお礼を言うのは俺たちの方だ。姫様のお陰で久しぶりにまともな食事にありつけることが出来たんだからな。本当に感謝している。けれど…あいつらに食事提供するのは多少ムカつくけどな」


スヴェンがジロリと睨みながら言った視線の先には、『エデル』の使者と兵士たちが食事をしている。

彼らは離れた席に座り、面白くなさげに食事をしていた。


「全く…あいつら、俺たちが食事をご馳走してやってるのにつまらなそうに食ってやがる」


スヴェンが忌々し気に言った。


「ええ、私もそう思いますよ」


彼らを敵視するリーシャも不満を口にする。


「俺は姫様を乗せた馬車がこの村に入って来た時からずっとあいつらの様子を物陰からうかがっていたんだよ。あの目つきの悪い兵士…ノックもせずに馬車の扉を開けただろう?それだけじゃない。姫様が馬車を降りるとき、手も貸さなかったじゃないか?」


「え?、もしかして見ていたの?」


スヴェンの言葉に驚いた。


「ええ、勿論。またこの村に略奪に来たのなら、追い払ってやろうかと思って交代で村の見張りをしていたんですよ」


ドーラさん教えてくれた。


「姫様、あいつら…信用しないほうがいいぜ?絶対に何か姫様に悪さを仕掛けてきそうな気がするんだ」


「ありがとう、心配してくれるのね?」

「ありがとうございます」


リーシャと2人でスヴェンに礼を述べた。


だけど…既にこの村に入った時から、実は彼らは私を窮地に陥れようとしていた…ということは、私とリーシャだけの秘密だ。


するとスヴェンが身を乗り出してきた。


「なぁ、姫様。それで一つ、俺から提案があるんだが…」


「提案?」


どんな提案なのだろう?


「ああ、そうだ。俺はどうしても奴等を信用できない。それに姫様は恩人だ。だから姫様が無事に『エデル』へ辿り着くまで、護衛をさせてもらえないか?」


それは、驚くべき内容だった―。




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