表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/380

第2章 20 戸惑いと焦り

「ここがお前の部屋だから覚えておくようにな」


アルベルトは白い扉の前で足を止めると振り返った。


「はい、どうもありがとうございます」


「朝食と昼食は別々になるが、夕食は毎晩一緒に食べることにしよう」


そしてアルベルトは私に笑いかけた。


え?毎晩一緒に?

その言葉は信じ難いものだった。


回帰する前は一度も一緒に食事すらしたことは無かった。

今回が初めての食事だったのに、それを毎晩一緒にだなんて……。


「どうかしたか?」


アルベルトが怪訝そうに首を傾げる。


「いえ、何でもありません。承知致しました」


「……」


すると、少しの間アルベルトは私を見つめると再び声を掛けてきた。


「やはり、専属メイドは自分が連れてきたメイドがいいだろう?」


「はい、そうですね。出来れば気心の知れたメイドがいいです」


「分かった。だが、あのメイドもまだこの城に来たばかりで色々勝手が分からないことも多いだろう。だからもう1人、この城のメイドとついでに侍女もつけることにしよう」


「え?」



その言葉に耳を疑い、思わず声が漏れてしまった。

あの時のアルベルトは私には誰一人としてこの城の侍女どころかメイドすらつけることなど無かったのに……。


「どうした?やはり……この城の者達は信用出来ないか?」


アルベルトは私の戸惑いを別の意味で捉えたのだろう。

じっと私の目を見つめてきた。


「い、いえ。別に……そういうわけでは……」


そう、私は警戒云々よりもアルベルトの態度があまりにも異なるので戸惑っていただけだ。


すると、突然アルベルトが顔を近づけてきた。


え?な、何を……?


そして戸惑っている私に耳打ちをしてきたのだ。


「安心しろ、お前につけるメイドと侍女は……宰相の派閥の人間ではない」


「!!」


驚いてアルベルトの顔を見上げると、彼は口角を上げて私を見つめていた。


「明日の午前中には新しいメイドと侍女が挨拶に来るはずだ。それではゆっくり休むといい」


「はい……ありがとうございます」


「ああ、お休み。それではまたな」


そしてアルベルトは踵を返すと、足早に去って行った……。




「……一体…何が起きているの……?」


アルベルトの背中を見守りながら、思わず疑問符が口をついて出てしまった。

想定外のことばかり自分の身に起きているので、考えがおいつかない。


それどころか、焦りすら感じていた。


どうしよう……。

このままでは私は離婚することが出来ずに、この城にずっととどまらなければならないのだろうか……?


まだ幼い弟のヨリックの為にも、早急にアルベルトと離婚してこの国を出たいのに……。



「とりあえず…部屋に戻りましょう」


ドアノブを回して私は扉を開けた――。




****



「まぁ……これは……」


部屋の中はすっかり就寝準備が整えられていた。

安眠を誘うためのハーブのお香が焚かれ、オレンジ色の灯りの灯るオイルランプが部屋の4隅で揺れていた。

テーブルの上には小さな瓶に入れられたお酒とベルが置かれている。

恐らく、お酒はブランデーに違いない。


壁のハンガーには夜着と思われる品の良いデザインのシルクのネグリジェがかけられていた。


時計を見ると、時刻は21時になろうとしている。


「ふぅ……何だか疲れたわ」


今夜は早めに休むことにしよう。


早速ナイトウェアに袖を通してみると、これも私のサイズにちょうど良かった。


「一体誰が私のドレスサイズを知っていたのかしら……?」


少しの疑問を感じながらも、今は疲れと眠気のほうが勝っていた。

そこで部屋に設置されたバスルームへ向かい、寝る準備を済ませてから部屋に戻ると

そのままベッドに潜り込んだ。


多分、私は相当疲れていたのだろう。


何故ならベッドに入ってすぐに泥のように眠りに就いてしまったのだから。


この日の夜は、懐かしい前世の夢を見ることも無かった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ