第2章 18 警戒と反省
「へ、陛下……。本気で仰っているのですか?私は前国王の代からこの国の宰相を務めていたのですよ…?それを……」
リシュリーが眉間にシワを寄せてアルベルトを見た。
「だから何が言いたいのだ?今の国王はこの私だ。お前を宰相の座から降ろすことだって可能なのだぞ?」
「陛下っ!」
怒りの為か、顔を真っ赤に染めたリシュリーが大きな声を上げた。
「出ていかないと言うなら、無理やり出て行かせてもいいのだぞ?」
アルベルトがパチンと指を鳴らすと、いきなり扉が開かれて屈強な体躯の2人の騎士が現れた。
「なっ?!」
「キャッ!」
リシュリーとカチュアは突然現れた騎士たちの姿に驚愕の表情を浮かべた。
「この2人を外へ連れ出せ」
「「はい」」
騎士たちは返事をすると、うろたえているリシュリーとカチュアに近付く。
「陛下の命令です。お立ち下さい」
「それとも無理やり連れ出しましょうか?」
「お、おいっ!貴様ら!私が誰か知っているのか?!」
「リシュリー様っ!」
リシュリーとカチュアが抵抗する。
「早く連れ出せ」
アルベルトは感情のこもらない声で命じた。
「「はっ!!」」
騎士たちはそれぞれリシュリーとカチュアを担ぎ上げた。
「よ、よせ!やめろっ!」
「離して!」
しかし、騎士たちの力に敵うはずも無くリシュリーとカチュアはダイニングルームから強引に出されていく。
バタン……
扉が閉められ、たちまち部屋の中は静かになった。
「……」
私は信じられない気持ちで2人が連れ出されていく様子を見つめていた。
一体……これはどういう状況なのだろう?
回帰前、アルベルトは全面的にリシュリーを信頼していた。
そして『聖なる巫女』のカチュアを側に置き、大切にする代わりに私を嫌い……徹底的に無視していた。
それなのに……何故アルベルトは今、笑みを浮かべて私を見つめているのだろう?
「やっと静かになったな」
向かい側に座る私に優しい声で話しかけてくるアルベルト。
「はい」
心の動揺を隠しつつ、返事をする。
「これで静かに食事が出来る。苦手な料理はあるか?」
「いえ、ありません。お気遣いありがとうございます」
「そうか、それは良かった」
アルベルトは何が嬉しいのか、私に笑顔を向けている。
一体何を考えているのだろう……?
ここは彼の意図を確認するべきかも知れない。
「陛下」
「何だ?」
「宜しかったのですか?宰相と、『聖なる巫女』にあのような真似をなさって……」
「2人を追い出したことか?」
「ええ……そうです」
「構うものか」
アルベルトは興味なさげに肉料理をカットすると口に運ぶ。
「…ですが……」
「それともあのまま彼らに好き勝手なことを言わせておけば良かったのか?」
「いえ、決してそのようなつもりではありません」
警戒しながら返事をする。
「元々、今夜の食事は2人だけの時間だったのだ。リシュリーが口を挟む権利は無いのだからな」
アルベルトの言葉で、先程自分が宰相の同席を許したことに罪悪感を抱いてしまった。
「……申し訳ございませんでした」
「そうだな。確かに浅はかだったな。クラウディア」
「はい……」
「反省しているのか?」
「はい、しております。折角陛下が私の為に用意して下さった席を…不快な気分にさせてしまいました」
「そうか。なら俺に詫びる気持ちがあるなら……笑顔を見せてくれるか?」
アルベルトの口調が変わった。
「!」
驚いて顔を上げると、アルベルトはじっと私を見つめている。
このような眼差しを回帰前は向けられたことなど無かった。
やはり、私の今迄の行動が……全てに影響を及ぼしているのだろうか?
それならば……。
「はい、陛下」
私はアルベルトに笑顔を向けた――。




