第2章 12 突然の来訪者
昼食は私とリーシャの2人分が用意されていた。
2人で向かい合わせに食事をしながら、リーシャは戸惑ったように私に声を掛けて来た。
「あの……クラウディア様」
「何かしら?」
スプーンを口に運ぶと返事をした。
「私はただの専属メイドで、侍女でも何でも無いのに…宜しいのでしょうか?クラウディア様と一緒のお食事なんて……」
リーシャは目の前に並べられた料理を見つめている。
テーブルの上には鶏肉や野菜を柔らかく煮込んだシチューや、スコーン、グリル野菜にキッシュが並べられていた。
「あら、いいのよ。だって厨房の人が料理をワゴンに乗せてくれたのでしょう?」
「ええ。確かにそうなのですが…申し訳ない気持ちで…」
「別に気にすること無いわ。お城からの計らいなのでしょうから。きっと長旅で疲れている私たちに気を使ってくれたのよ」
そう答えながらも、私も実は内心この状況に戸惑っていた。
侍女長が訪ねて来たこともそうだが、アルベルト自身が私をこの部屋まで連れて来たことや服が用意されていたことも含めて。
「そうなのですね。ならこれで少しは安心出来ました。私たちはこの国に歓迎されているってことですよね?」
「……」
リーシャの言葉に私はすぐに頷くことが出来なかった。
歓迎?
本当に歓迎されているのだろうか?
何しろ私はかつて、1度目の人生で処刑されているのだから……。
「どうかなさいましたか?クラウディア様」
返事をしない私にリーシャが尋ねて来た。
「いえ、何でも無いのよ。そうね、きっと歓迎されているのよ」
何も知らないリーシャを不安がらせるわけにはいかない。
ただでさえ、彼女は未だに自分の置かれている状況に混乱して不安定なのだから。
「それを聞けて安心しました」
「ええ、そうよ。それにしても美味しい食事ね」
「はい。クラウディア様」
そして私たちはその後も会話しながら2人きりの食事を楽しんだ――。
**
食事が終わり、リーシャは厨房に食器を運ぶ為に部屋を出て行った。
その後はメイド教育があるらしく、しばらくは戻って来れないと言うことで暫くの間は1人部屋で過ごすことになった。
「この部屋…本当に懐かしいわね」
食後のお茶を飲みながら、改めて私は用意された部屋を見渡した。
家具や調度品、壁紙やカーテンにカーペットの色合い迄何もかもが変わりない、全てがワインレッドの色合いでコーディネイトされていた。
「…出来れば色合いは白の方が好きなのだけど……贅沢はいけないわね」
日本で暮らしていた頃、私は白が好きだった。
明るい日差しが差し込むリビングは白い家具で統一され、観葉植物が置かれていた。
そして家族の為に食事の用意をし……。
そこまで考えた時……。
コンコン
コンコン
コンコン
自棄にせわしないノックの音が聞こえて来た。
「一体誰かしら……?」
椅子から立ち上がり、私は扉に近付くと声を掛けてみた。
「どちら様でしょうか」
『はい、トリスタン・リシュリーと申します。この度、王妃となるべく我が国に嫁がれてこられたクラウディア様にご挨拶する為に伺いました』
「!」
トリスタン・リシュリー。
私の天敵…‥…!
彼の方からまさか私を訪ねて来るとは思いもしなかった。
「…分かりました。今、扉を開けます」
私は意を決すると、扉を開けた――。




