第2章 10 侍女長とメイド
「あら……どなたでしょうか?私、出てみますね?」
リーシャが立ち上がった。
「ええ。お願いね」
私の言葉に頷くと、リーシャは扉を開けに向かった。
「どちら様でしょうか?」
リーシャが扉越しに声を掛ける。
『私どもはこの城に仕える侍女長です。陛下の命により、クラウディア様の元に参りました』
「え?陛下の?!」
慌ててリーシャは扉を開けると、そこにはダークブラウンのドレスを着用した50代程の年齢の女性が背後に2人のメイドを連れて立っていた。
「はじめまして、侍女長様。クラウディア様の専属メイドとして参りましたリーシャと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
丁寧に挨拶をするリーシャに侍女長は頷くと、私の方を振り返った。
「はじめまして、クラウディア様。私はこの城の侍女長のメラニーと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「ええ。はじめまして、メラニー」
訝しげに思いながら挨拶を返した。
侍女長が何故……?
回帰前、彼女は一度も私の元を訪ねてくることは無かった。何故なら端から私はこの国に歓迎されていなかったし、彼女はカチュアにかかりきりだったからだ。
「それではまず、入浴の準備をさせて頂きます。その後はこちらのお召し物にお着替え下さい」
見ると、背後に立っているメイドは大きな箱を抱えていた。
「え?私に……?」
回帰前と今とではあまりにも対応に違いがあるので戸惑うばかりだった。
「はい、そうです。陛下よりクラウディア様のお世話をするように仰せつかっておりますから」
「……ありがとう。それではお願いするわ」
侍女長は言葉遣いこそ丁寧だったが、どこか私を軽んじている態度に見えた。
恐らく嫌々アルベルトの命令を聞いているのだろう。
「では準備をさせて頂きます」
侍女長メラニーは頭を下げると、メイドを引き連れて室内に入ってきた。
そして隣の部屋のバスルームへと消えていった。
「あの……クラウディア様。私はどうしたら良いでしょうか……?」
リーシャが困った様子で声を掛けてきた。
「いいのよ。貴女は今日の所はゆっくり休んで。後でメラニーには私から貴女のことをお願いするから。貴女をこのまま私の専属メイドにさせたいって」
「はい」
私の言葉にリーシャは安堵の笑みを浮かべた。
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その後、バスタブにお湯が張られた後は侍女長たちが手伝いを申し出るのを断固として断ると1人ゆっくり浴槽に身体を沈めた。
「ふぅ……気持ちいいわ……」
天井を見つめながら、思わずため息が漏れる。
「それにしても……夕食を一緒になんて、アルベルトは一体何を考えているのかしら?」
出来れば彼とは……いや、『エデル』の城の人々とは出来るだけ関わり持ちたくはないのに……。
私は少しの間、1人の時間を堪能した――。
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入浴を終え、濡れた髪をタオルで乾かしながらメイドが置いていった着替えが入った箱を見た。
「一体どんなドレスが入っているのかしら…」
回帰前の私は派手なドレスばかりを好み、勝手に仕立て屋を呼び寄せて何着もドレスを作らせていた。
けれど、今では違う。
日本での生活が私の全てを変えたのだ。
「出来ればシンプルにブラウスとスカートがいいわ……」
ため息をつきながら、私は箱に手を掛け……目を見開いた――。




